鈴木月瑠は唇を少し曲げ、目に笑みが届かないまま、ゆっくりと口を開いた。「私はとても知りたいわ。あの時デルタから招待を受けて、長老会に入れて研究所のすべてのリソースを使えるようにすると約束されたのに、なぜ断ったの?」
デルタは、まさに神の聖地であり、数多くの研究者が群がっていた。
日本の研究環境と技術は、確かに国際的にトップクラスだが、デルタは日本よりもさらに進んでいて、さらに優れていた。
そこでは、研究プロジェクトが禁止されることを心配する必要がなかった。
デルタ研究所にいる限り、研究したいことがあれば、彼らは設備と資金を提供してくれる。
しかも、その資金は尽きることがない。
研究者にとって、これは間違いなく大きな誘惑だった。
そして、彼らは破格の給料を得て、世間から称賛と尊敬を受ける地位を享受し、そこを離れても、どこにいても一段上の扱いを受けた。
名誉と研究キャリア、両方が手に入るというわけだ。
だから、世界中の科学者が招待を受けた時、95パーセントの科学者が自国を離れ、そこに加わった。
そして、国籍を変更し、デルタの人間となった。
しかし鈴木月瑠の知る限り、これを断った人々は全て日本人の科学者だった。
彼ら日本人は気骨があり、最初のデルタの科学者たちが日本人だったとしても、彼らは頭を下げようとはしなかった。
それが鈴木月瑠が当時、きっぱりと離れた理由でもあった。
「お嬢さん、よく知ってるね」栗本放治はにこにこと笑い、普段の冷たい目に温かみが加わった。
昨日、彼は鈴木月瑠に自分のことを話したが、デルタから招待された時にどんな条件を提示されたかは話していなかった。
よく知っているものだ。
一橋貴明は少し目を上げ、ゆっくりと言った。「月瑠は以前デルタにいたんだ」
鈴木月瑠:「……」
彼女は一橋貴明の方を向いて、何も言わず、まるで『私の正体はいつバレたの?』と問うかのような目つきだった。
一橋貴明は彼女のその目つきに最も弱く、小さく笑って言った。「推測さ」
鈴木月瑠:「……」
栗本放治はこの情報に驚き、少し間を置いて尋ねた。「いつ帰って来たんだ?」
鈴木月瑠は笑った。「本当に聞きたい?」
栗本放治:「……」
鈴木月瑠は軽く笑い、上がった目尻が艶やかに輝いた。「13歳の時に離れたの」
栗本放治:「……」