第509章 どこも綺麗

太夫人は鈴木月瑠のことばかり気にかけていて、一橋貴明のことなど全く気にも留めていなかったため、当然、彼の首筋の歯形にも気付いていなかった。

この時、息子が突然孫と何やら秘密めいた話をしているのを見て、太夫人は不思議に思った。「二人とも、私に隠れて何を話しているの？」

「何でもありません」

一橋貴明は口角を上げながら、鈴木月瑠の器に牛肉を取り分け、太夫人の器にはジャガイモを入れ、意地悪そうに笑った。「おばあちゃん、たくさん食べてください」

太夫人は自分の器のジャガイモを見て「……」

彼女が一橋貴明を睨もうとした時、ふと彼の首筋の歯形が目に入った。

歯形はもう薄くなっていたが、太夫人は一橋貴明との距離が近かったため、老眼鏡をかけていなくてもはっきりと見えた。

太夫人の目に光が宿り、何かを思いついたように、パッと顔を輝かせて笑みを浮かべた。「ひ孫ができるの？」

鈴木月瑠「……」

一橋貴明はテーブルの上の料理を全部鈴木月瑠の器に入れたいくらいで、目尻を上げて笑った。「月瑠はまだ若いですから、そんなことを考えないでください」

太夫人は一橋貴明が本当に情けないと思い、もう相手にする気も失せた。

夕食後、太夫人は鈴木月瑠の手を離さず、笑顔で言った。「月瑠ちゃん、おばあちゃんにお願いを一つ聞いてくれない？」

鈴木月瑠は真剣な表情で、素直に「はい、何でしょうか」と答えた。

太夫人は笑いながら言った。「七郎のおじいさんのことは知っているでしょう？何年も病床に伏せっていて、生きてはいるけれど目覚められないの」

「あなたは医術が上手だから、私の夫を治療してくれないかしら？」彼女は鈴木月瑠の手を握りながら、優しく笑った。

鈴木月瑠は漆黒の瞳を優しく輝かせ、少し考えてから答えた。「一橋おじいさまの状態を確認してから、診断を下させていただく必要があります」

「ええ、もちろん、気にしないで見てちょうだい。何か困ったことがあったら、おばあちゃんに言ってね」一橋太夫人は相変わらず笑顔で、さらに嬉しそうだった。

一橋貴明が近づいてきて、低い声で言った。「治療は構いませんが、規則通りに診察料をお支払いいただきます」

太夫人は一橋貴明のその言葉に腹を立て、テーブルを強く叩いて睨みつけた。「不孝者め、おまえ、おじいさまからまでお金を取るつもり？」