トイレは廊下の奥にあり、鈴木月瑠が歩いていると、突然後ろから冷たい声が聞こえた。「鈴木月瑠?」
鈴木月瑠は眉を上げ、振り返った。両手をポケットに無造作に入れ、だらしない姿勢で。
遠藤音美が彼女の後ろに立っているのが見えた。表情は暗く、鈴木月瑠を見る目は、まるで仇敵を見るかのようだった。
その瞳には、濃い憎しみが宿っていた。
「ちょうどあなたを探していたところよ。まさか、ここで会えるとは思わなかったわ」
遠藤音美は目尻を少し上げ、眉目に軽蔑的な冷たさを浮かべた。「それなら、直接話しましょう」
鈴木月瑠は目を細め、いらだたしげな様子で「話すことなんてないわ」
遠藤音美はそんなことは気にもせず、声を低くして怒りを爆発させた。「鈴木月瑠、警告しておくわ。師匠と知り合いだからって、斉田派を任せてもらえると思わないことね!」
「ピアノに触れたこともないくせに、宗主になろうなんて、夢見すぎよ!」
「門下生は誰一人としてあなたを受け入れないわ」
「諦めることね」
斉田勝がこのことを発表してから、門派全体に噂が広まるのは早かった。
入門したばかりの弟子たちまでもが、このことを知っていた。
全員が鈴木月瑠が宗主になることに反対し、もし彼女が引き継ぐことになれば、門派を去ると言い出した。
芸術を理解しない人間に導かれるなんて、自滅行為ではないか?
遠藤音美は事態が大きくなることを望んでいた。できれば芸術界全体に知れ渡ってほしかった。
鈴木月瑠が宗主になりたい?
彼女に何の資格があるというの?
たとえ鈴木月瑠が斉田勝を騙したところで何の意味がある?門下生たちは皆プライドが高く、素人なんて受け入れるはずがない。
鈴木月瑠は口角を少し上げたが、目には笑みの欠片もなかった。「私はそんなことに興味ないわ。斉田おじさんが無理やり押し付けてくるだけよ」
「私も面倒だと思ってるの。あれだけ弟子がいて、息子もいるのに、どうして私に任せたがるのかしら?」
「あなたが宗主になりたいなら、斉田おじさんに頼めばいいじゃない。機嫌を取れば、宗主の座を得られるかもしれないわよ」
少女の声は軽くてゆっくりとしており、怠惰な雰囲気を漂わせていた。
遠藤音美を見る視線は無関心で、冷たく、口角には嘲りと冷酷さが浮かんでいた。