しばらくすると、遠藤音美が来た。
車から降りると、三木清スタジオのスタッフがすぐに迎えに行き、恭しく声をかけた。「遠藤お嬢さま」
遠藤音美は特効薬を使って、顔の傷跡は消え、歩けるようになっていた。
「今日はドレスを借りに来る人が多いわね」遠藤音美は駐車場の高級車を一瞥し、嘲笑うような笑みを浮かべた。
安田家は政界の名門だが、研究者も輩出している。
今回は前外務大臣の安田大御爺さんの誕生日パーティーで、帝都の上流社会が招待されていた。
明日の夜は、まさに美の競演になるだろう!
スタッフたちや理香たちは、遠藤音美を見かけると、丁寧に挨拶をした。
遠藤音美はホールに入り、淡々とした口調で言った。「前に借りたいと言った黒鳥シリーズ、静墨さんはどう言ってた?」
以前、鈴木月瑠と乗馬で事故があった後、松本旻たちに情報を聞こうとしたが、何も分からなかった。
池田霄たちも口が堅かった。
遠藤音美は一橋貴明が来るかどうか分からなかったが、一橋家は招待リストに入っていた。
一橋貴明が来ようが来まいが、彼女はパーティーで最も輝く存在になるつもりだった!
黒鳥シリーズはファッションウィークで金賞を取ったばかりで、もしメインドレスを借りることができれば、パーティーで華々しく輝けるはずだった。
スタッフは申し訳なさそうに言った。「遠藤お嬢さま、申し訳ございません。静墨さんは黒鳥シリーズはスタジオの珠玉のコレクションなので、貸し出しはできないとおっしゃっています」
遠藤音美の表情が曇り、平手打ちを食らったかのように、ひどく醜い顔つきになった。
彼女は不機嫌そうに言った。「レンタル料として500万円出すのよ。それでも嫌なの?」
500万円のレンタル料は、オートクチュールドレスとしては高額な部類に入る。
このドレスを購入するにも十分な金額だ。
さらに言えば、遠藤音美はたった一度着用するだけなのだ!
彼女は三木清スタジオが断るはずがないと思っていた。結局のところ、向こうから来た商売を、誰が断るだろうか?
しかし静墨は断ったのだ?
スタッフは慎重に謝罪した。「遠藤お嬢さま、本当に申し訳ございません!静墨さんは、いくら出されても貸し出しはできないとおっしゃっています。他のお嬢様方も黒鳥シリーズを借りたいとおっしゃいましたが、静墨さんは全てお断りしました」