「母が私に残してくれたものよ」鈴木月瑠は淡々と言いながら、目を細めた。
鈴木剛士はようやく安心して、深く考えずに言った。「そうだったのか。びっくりしたよ」
鈴木月瑠は無関心そうに口角を上げ、何も言わなかった。
この玉の飾りは、確かに母のものだったが、母は彼女に残してはいなかった。
あの時、彼女は母がこの玉の飾りを身につけたまま、葬儀場に運ばれるのを目の当たりにした。
その後、この玉の飾りを再び見たのは…
鈴木月瑠は軽く舌打ちをし、テーブルに向かってA4用紙にデータを書き始めた。
しかし、玉の飾りのことが頭から離れず、イライラして書き終えた紙を丸め、また広げて、細かく引き裂いた。
彼女は無表情で、顔には何の感情も浮かべていなかった。
何枚の紙を引き裂いたか分からないうちに、鈴木月瑠は突然手のひらに痛みを感じ、眉をひそめて目を落とした。
手のひらの傷が紙の角で擦られ、新しく生えた肉が破れそうになっていた。
鈴木月瑠は冷笑し、気にせずにボールペンを取り直し、紙に一画一画、鈴木敏と伽葉先生という二つの名前を書いた。
筆圧が強く、紙が破れそうになった。
……
一週間後、松本旻の乗馬クラブがついにオープンした。
以前、鈴木月瑠が時間がないと言ったため、松本旻は乗馬クラブのオープンを延期し、鈴木月瑠が完治してからオープンすることにした。
松本旻は口角にタバコをくわえ、火が明滅していた。
まさか遠藤音美というやっかいものが来るとは思ってもみなかった。
当初、乗馬クラブのオープンは業界内でかなり話題になっていたが、後に鈴木月瑠のために延期されたことは、親しい友人たちだけが知っていた。
その後、松本旻は噂話から鈴木月瑠と遠藤音美が仲たがいしていることを知り、オープン時は大々的に宣伝しなかった。
しかし思いがけず、遠藤音美が来てしまった。
松本旻は心の中で困惑した。
大物は来なかったのに、厄介者が来てしまうとは!
遠藤音美は優雅に装い、振る舞いも上品で、贈り物を松本旻に渡しながら言った。「開店おめでとうございます。万事順調でありますように」
「どうも」
松本旻は表面的な笑みを浮かべながら、贈り物を受け取ったが、心の中では落ち着かなかった。
朝、一橋貴明から連絡があり、鈴木月瑠と一緒に来ると言っていた。今頃は道中のはずだ。