黒田夫人は、この心の黒い夫婦と長々と話をする気にもならず、すぐに鈴木家へ向かった。
しかし、鈴木のご家族は鈴木月瑠がまだ帰っていないと言い、彼女は鈴木家で待つしかなかった。
夜の11時になって、やっと一橋貴明が鈴木月瑠を送り届けた。
鈴木月瑠は玄関に入るなり、そこに座っている貴婦人を見て、少し冷たい目つきで鈴木太夫人の方へ歩み寄った。「お祖母様、お客様がいらっしゃいますね」
「ええ」
鈴木太夫人は頷き、鈴木月瑠に紹介した。「月瑠、こちらは黒田夫人よ。中村奥様のお母様だわ」
鈴木月瑠は淡々とした口調で言った。「黒田夫人」
「鈴木月瑠さん」
黒田夫人は非常に好意的な態度で、さらに誠実な口調で言った。「私が鈴木家に来た意図はもうお分かりでしょう」
「本日私が参りましたのは、まず不肖の娘に代わって、鈴木月瑠さんと中村楽にお詫びを申し上げたく、そして二つ目は、鈴木月瑠さんに私の不肖の娘を救っていただきたいと願うためです」
「診療費については、中村楽が後に10億円と言いましたが、以前お話しした50億円のままで、鈴木月瑠さんがどのような要求をされても、私にできることであれば何でもさせていただきます」
やはり実の娘のことなので、黒田夫人も無関心ではいられなかった。
しかし50億円は、母娘の縁を切る代価といえた。
「中村楽に異議がないのなら、私も異議はありません」
鈴木月瑠は冷淡な口調で言った。「黒田夫人は女傑で、物事の道理をわきまえていらっしゃる。あなたの心の黒い娘とは違います。診療費は中村楽の言った通りにしましょう」
そう言いながら、カバンから数枚の紙を取り出し、処方箋を書いて黒田夫人に渡した。
「処方箋に書かれた方法で服用してください。それ以外の薬や健康食品は一切摂取しないでください。さもないと逆効果で体を損なうことになります」
「この白い瓶の中身は、がん細胞の拡散を抑制する薬です。毎日1錠ずつ服用し、1本使い切ったら針の大村さんの鍼灸を受けてください」
処方箋は胎児を守る薬で、抗がん剤と同時に服用することで、がん細胞の拡散を抑制できる。そうしなければ、妊娠月数が進むにつれて、がん細胞はより速く拡散してしまう。