第646章 100億の診察料

デルタ中核基地でどんな実験が行われているのか、鈴木月瑠は前回のチップから、ある程度推測できていた。

デルタの歴史上、かつて一度の動乱があったと聞いている。

二十年前のことだ。

当時、外部の数多くの人々がこの魅力的なデルタに目を向けていたが、後に、動乱は内部で強力に押さえ込まれた。

鈴木月瑠はデルタで数年過ごし、黒川嶺から二十年前の出来事について聞いていた。実験があまりにも先進的すぎたために、動乱が引き起こされたという。

脳に埋め込まれたチップと合わせて考えると、鈴木月瑠はその秘密の実験が、人間そっくりのロボットを作り出そうとしていたことを知った。

普通のロボットではなく、人間の思考を持ち、超強力な戦闘力を備え、不老不死のロボットだ。

「なるほど」

池田ふうたは納得したように頷いた。「そのような存在を作り出そうとするなら、秘密結社とデルタの原則は、あまり一致しないように思えますね」

鈴木月瑠は説明した。「これは二段構えの計画なんです」

もし301基地の実験が失敗した場合、秘密結社の遺伝子薬を通じて、一般人の体質を改善することができる。

同様に一般人を、超強力な戦神にすることもできる。

現代世界において、鈴木月瑠は遺伝子改善が最も成功した一人とされている。

黒川嶺が鈴木月瑠を引き止めようとしたのも、結局は鈴木月瑠から遺伝子キーを得たかったからだ。

しかし、どちらの計画も反人類的で、歴史に容認されるものではない。

真相が暴露されれば、デルタは世界の公敵となるだろう。

だから、彼らはこの実験を徹底的に隠蔽し、秘密結社の後ろ盾となり、そのため小池紀之のような優秀な人物でさえ、秘密結社の追跡に失敗していた。

もし鈴木月瑠の助言がなければ、今でも手がかりひとつ掴めていなかっただろう。

一橋清代は国際刑事ではあるが、どこにでも介入できるわけではない。デルタのような特殊な存在に対しては、彼女にも調査する権限がない。

「本当に非道だな」松本旻はため息をついた。

一橋貴明は意味ありげな目で鈴木月瑠を見つめ、その瞳に興味深そうな色が浮かんだ。

……

中村家は暗い重圧に包まれていた。

中村楽が鈴木月瑠に中村お母さんの治療を拒否したことで、中村お母さんの最後の望みも断たれた。