鈴木月瑠は瞳を伏せながら、一橋貴明を見る時、微妙な眼差しを向けた。「私の目は確かだから、並の人には目もくれないわ」
一橋貴明は薄い唇を緩めた。「つまり、僕だけが目に留まるということ?」
かなり自信満々だ。
鈴木月瑠は笑いながら、一橋貴明に近づいた。
その整った魅力的な顔立ちが、すぐ目の前に迫り、紅い唇が間近に見えた。
一橋貴明は思わず目を閉じた。
呼吸の中に、少女の芳しい香りが漂い、まるで柔らかな雲の上にいるかのようだった。
彼は丸五秒待ったが、薄い唇にその柔らかさは触れなかった。
一橋貴明は眉をひそめ、鈴木月瑠を見つめ、瞳には複雑な感情が宿っていた。
鈴木月瑠はすでに姿勢を正して座り、スプーンでプチケーキを食べていた。さっきの彼の様子には気付いていないようだった。
鈴木月瑠は横目で一橋貴明を見て、真面目な表情で言った。「今日は口紅を塗ってるから、よくないわ」
一橋貴明は彼女の唇を見て、本当に口紅を塗っているのか、それとも唇の色が赤いだけなのか分からなかったが、低く笑った。「舌...でもいいよ」
鈴木月瑠はスプーンを持つ手が震えた。「……」
車が突然揺れ、すぐに安定した。
池田ふうたは危うく投げ出されそうになった。
鈴木月瑠と一橋貴明は安定して座っていた。
「申し訳ありません、手が滑りました」松本旻は照れくさそうに鼻先を撫で、驚きの表情を浮かべた。
以前、帝都では一橋貴明が女性を寄せ付けないと噂されていたが、今や女性を寄せ付けるどころか、こんなにも色っぽくなっていた。
彼の段位でさえ、及ばないほどだ。
一橋貴明は冷たく言った。「運転できないなら降りて、歩いて帰れ」
松本旻は「……」
「後ろの子たちが家に来て食事することは気にならない?」鈴木月瑠は後ろの車を振り返って見た。
一橋貴明は淡々とした口調で言った。「僕は気にならないよ。君が気にするんじゃないかと思って」
鈴木月瑠の瞳が微かに揺れ、胸が締め付けられるような感覚があった。
池田ふうたは胸が痛むのを感じ、ようやく池田霄と鈴木静海が外出する時の、あの極限の心痛を理解できた。
彼は胸をさすりながら、LINEの連絡先を見た。
なんと、全員男性ばかりだった。
まともな女性が一人もいない。
彼は思わず松本旻に向かって言った。「松本さん、兄貴に彼女を紹介してよ」