遠藤音美は深いため息をつき、怒りを必死に抑え込んだ。
斉田勝と一緒に中に入ろうとした時、後ろから突然驚きの声が聞こえた。「Hera、あれはHeraじゃない?」
Hera?
遠藤音美は足を止めた。
今回のコンテストの審査員にHeraがいることを知っていたからこそ、このコンテストに参加したのだ。Heraのオーケストラに入るためだった。
オーケストラにはまだ一人欠員があり、音楽界では多くの人々が必死になって入り込もうとしていた。
高慢な遠藤音美でさえ、入りたいと思っていた。
以前Heraに断られたにもかかわらず、諦めきれず、直接Heraと話したいと思っていた。
Heraが来たと聞いて、斉田勝も見向きを変えた。車から降りてきた女性が、人々に囲まれているのが見えた。
Heraは40代の女性だと聞いていたが、誰も彼女の本当の姿を見たことがなく、皆が彼女の曲目のために来ていた。