第764章 良い選択

鈴木月瑠は落ち着いて壇上に上がり、マイクを手に取りゆっくりと話し始めた。

「皆さん、こんにちは。私はポリテク株式会社マーケティング部の部長、鈴木月瑠と申します。本日は弊社の新しいスマートホームシステムをご紹介させていただきます。」

彼女の声は非常に澄んでいて、山間を流れる泉のせせらぎのようであり、また軒先に落ちる雨のようでもあった。その穏やかな声は、人々に息を止めて聞き入らせるほどだった。

客席で退屈していた希崎はすぐに目を見開いた。

彼は一橋晶の袖を引っ張り、声を潜めて興奮気味に言った。「お兄ちゃん、見て！月瑠だよ！月瑠の声、すごく綺麗だね。もし彼女がこんな声でお話を聞かせてくれたら、僕は毎晩ぐっすり眠れるだろうな！」

一橋晶は壇上の人物に目を向け、胸の高鳴りを抑えながら、ピンク色の唇を引き締めて黙っていた。

「私たちのこのスマートホーム製品の愛称は波ちゃんと言います。『波ちゃん』と二回呼びかけると、応答してくれますよ。」鈴木月瑠はスマートロボットを手に取り、微笑みながら言った。「波ちゃんはまだ4歳の子どもです。年齢は小さいですが、反応はとても速いんですよ。どんな指示を出しても、波ちゃんは実現できます。会場の皆さんの中で、試してみたい方はいらっしゃいますか？」

鈴木月瑠は優しい眼差しで客席を見渡した。

この対話シーンは本来PPTで表示される予定だったが、PPTが消えてしまったため、彼女はその場でお客様との対話を促すしかなかった。

しかし、会場にいるのは40代、50代の年配の成功者たちばかりで、このような対話に全く興味を示さなかった。

鈴木月瑠の言葉が終わってから数十秒が経過したが、客席からは誰も反応しなかった。

彼女は微笑んで、言い訳するように続けた。「皆さん、私たちの波ちゃんをあまり信用していないようですね。それでは、私がデモンストレーションをお見せしましょう…」

「僕、僕、僕！やります！」

客席から、希崎が突然立ち上がった。

彼は一目散に壇上に駆け上がり、興奮で赤くなった顔で言った。「さっきはよく聞こえなかったけど、今わかったよ。試してみたいな、いいかな？」

鈴木月瑠はこっそりと小さな男の子に親指を立てた。

このような時に助け舟を出してくれるのは、彼女にとって大きな助けだった。