「藤原社長……」
高野広は赤木の箱を抱えて入ってきたが、藤原徹と高倉海鈴が抱き合っているのを見て、すぐに身を翻した。「申し訳ありません、社長。何も見ていません」
高倉海鈴は彼の声を聞いた瞬間、藤原徹の腕から身を引いた。
空っぽになった腕を感じながら、藤原徹は心の中で冷笑し、立ち去ろうとする高野広を呼び戻して、高倉海鈴に紹介した。「高野広だ。会社の秘書。海鈴、私の妻だ」
「奥様、はじめまして」
高野広は以前、運転手の田中さんから、若旦那が区役所の前で即席の結婚をしたと聞いていた。彼は藤原社長が藤原元社長への対策としてやったことだと思っていたが、先ほどの様子を見ると……
この二人は間違いなく何かあるな。即席結婚なんて、ただの建前だったんだ!
高倉海鈴は軽く頷いただけで、それが彼への返事とした。