「藤原社長……」
高野広は赤木の箱を抱えて入ってきたが、藤原徹と高倉海鈴が抱き合っているのを見て、すぐに身を翻した。「申し訳ありません、社長。何も見ていません」
高倉海鈴は彼の声を聞いた瞬間、藤原徹の腕から身を引いた。
空っぽになった腕を感じながら、藤原徹は心の中で冷笑し、立ち去ろうとする高野広を呼び戻して、高倉海鈴に紹介した。「高野広だ。会社の秘書。海鈴、私の妻だ」
「奥様、はじめまして」
高野広は以前、運転手の田中さんから、若旦那が区役所の前で即席の結婚をしたと聞いていた。彼は藤原社長が藤原元社長への対策としてやったことだと思っていたが、先ほどの様子を見ると……
この二人は間違いなく何かあるな。即席結婚なんて、ただの建前だったんだ!
高倉海鈴は軽く頷いただけで、それが彼への返事とした。
「社長、これは……」
高野広は手の中の赤木の箱を持ち上げ、続けるべきか迷っていた。
高倉海鈴は空気を読んで口を開いた。「お二人はお仕事を。私は上に行きます」
「いや」
藤原徹は手を上げて彼女を止め、高野広から赤木の箱を受け取って開け、高倉海鈴の前に差し出した。「君は度胸があると言っていたな?じゃあ、開けて見てみろ」
高野広は思わず制止しようとした。「社長、それは……」
藤原徹は彼を無視し、高倉海鈴はさらに直接的に、手早く赤木の箱の錠を外した。
赤い絹布が敷かれた箱の中には、冷たい光を放つ拳銃が置かれていた。珍しい銀色の銃身で、美しく精巧な作りだった。
高倉海鈴の目が輝いた。
藤原家の当主は権力が絶大だと言われているが、さすがだ。銃までも扱えるなんて。
彼女は海外から帰国して以来、これに触れることはなかった。国内では公務員しか銃を所持する資格がなく、一般人は一生触れることもできないのだから。
藤原徹は高倉海鈴の顔を見つめ続け、彼女の表情の一つ一つを見逃さなかった。普通の女性が銃を見た時の第一反応がどうなのか藤原徹は知らないが、高倉海鈴の今の表情ではないことは確かだった!
瞳は輝き、やる気に満ちていた!
高倉海鈴は素早く藤原徹を見た。この人が銃を見せたのは、わざと彼女を焦らすためじゃないよね?