「これは高倉さんの演奏ですか?」
「まあ!彼女がこんな名曲を演奏できるなんて、さっきの演奏は雰囲気作りだけだったのね」
バイオリンの音色から、人々は悲しみと壮大さを感じ取り、やがてそれは明るく変わっていった。まるで今の平和な世の中、国の繁栄を表すかのように。
八尾夢子の曲が明るく軽やかな調べだとすれば、高倉海鈴の曲は愛国心に満ちた壮大な音色だった。歌詞は一つもないのに、深い感情が伝わってくる。
最後の音が鳴り終わると、高倉海鈴は腕を下ろし、軽く頭を下げた。その瞳は冷たい光を宿していた。
誰もが息を呑み、この静寂を破ることを躊躇った。
皆は音楽に浸り、高倉海鈴と共に山河を眺め、戦火を越え、そして今の平和な世を目にしたかのようだった。
しばらくして、やっと我に返った人々は、曲がとうに終わっていたことに気づいた。それでもまだ興奮が収まらず、まるで壮大なコンサートを見終えたかのような気分だった。