第362章 全員を魅了する

「これは高倉さんの演奏ですか?」

「まあ!彼女がこんな名曲を演奏できるなんて、さっきの演奏は雰囲気作りだけだったのね」

バイオリンの音色から、人々は悲しみと壮大さを感じ取り、やがてそれは明るく変わっていった。まるで今の平和な世の中、国の繁栄を表すかのように。

八尾夢子の曲が明るく軽やかな調べだとすれば、高倉海鈴の曲は愛国心に満ちた壮大な音色だった。歌詞は一つもないのに、深い感情が伝わってくる。

最後の音が鳴り終わると、高倉海鈴は腕を下ろし、軽く頭を下げた。その瞳は冷たい光を宿していた。

誰もが息を呑み、この静寂を破ることを躊躇った。

皆は音楽に浸り、高倉海鈴と共に山河を眺め、戦火を越え、そして今の平和な世を目にしたかのようだった。

しばらくして、やっと我に返った人々は、曲がとうに終わっていたことに気づいた。それでもまだ興奮が収まらず、まるで壮大なコンサートを見終えたかのような気分だった。

大きな拍手が沸き起こり、皆は興奮して称賛した。「曲が終わったことにも気づかないほど音楽に引き込まれていました。高倉さんの演奏は素晴らしかった!」

木村の祖父も立ち上がり、顔を紅潮させながら興奮して拍手を送った。「この曲は初めて聞きましたが、作曲した方は天才に違いありません。高倉さんがこれほど難しい曲を、一つのミスもなく演奏できるなんて、本当に素晴らしい!」

木村の祖父の言葉が終わると、再び大きな拍手が沸き起こった。

高倉海鈴は淡々と視線を巡らせ、八尾夢子と佐藤敏隆に目を留めると、さりげなく尋ねた。「八尾さん、佐藤さん、私の演奏が終わりましたが、無学だという噂を打ち消すだけの実力があったでしょうか?」

八尾夢子は言葉に詰まり、唇を噛んだ。

佐藤敏隆は顔色を変え、しばらくして歯を食いしばりながら言った。「高倉さんの演奏は確かに素晴らしかった……」

「佐藤さんでさえそう言うなら、私にもチャンピオンと競う資格はあるということですね。面目は保てたようです」

木村香織は再び拍手を送った。「高倉さん、3年もバイオリンから離れていたのに、これだけ弾けるということは、当時はもっと素晴らしかったということですよね。そんな実力者を批判するなんて、佐藤さんの要求が高すぎるとしか思えません」