皆にとって、広島は神秘的で憧れの場所だった。広島から出てきた者は皆、裕福か身分の高い者ばかりで、まして家柄の良い鈴木家となれば尚更だった。
何百年も続くこの名家が、高倉海鈴の誕生日に人を寄越すとは?
誰かが気づいて、おずおずと尋ねた。「失礼ですが、鈴木家からいらっしゃったのはどなた様でしょうか?」
もし鈴木家が執事や使用人を寄越しただけなら、大したことではない。結局、鈴木家の主たる人物は現れていないのだから。
次の瞬間、執事は冷や汗を流しながら口を開いた。「あ、あの...広島の鈴木家の若様、鈴木薫様です。」
轟――!!
皆の心臓が飛び上がり、一斉に立ち上がって、まるで魔法にかかったかのように外へ飛び出していった。
別れの挨拶をする暇もなく、元々賓客で賑わっていた宴会場は一瞬にして閑散としてしまった。