第604章 突然現れた夫

木村香織は手を振り、ボディーガードに男を引きずり出すよう命じたが、その男は会場内を見回し、まるで標的を定めたかのように、高倉海鈴の前に突っ込んでいった。

男は髪の毛がべとべとで、古びた服を着て、汚らしく見え、高倉海鈴の手を掴もうとしたが、木村香織に遮られた。

「あなた誰！何をするつもり？」

だらしない男は木村香織を無視し、直接高倉海鈴の足に抱きつき、彼女のスカートの裾をしっかりと掴んで、大声で叫んだ：「妻よ！やっと見つけたぞ！」

この「妻」という言葉に、皆は目を見開き、思わず近くにいる藤原徹の方を見た。

この男が高倉海鈴を...妻と呼んだ？

藤原徹は目を細め、長い指でワイングラスを撫で、何かを企んでいるようで、その後視線を久保真美に向けた。

男は高倉海鈴が何の反応も示さないのを見て、すぐに凶暴になった。「妻よ！お前の心は冷たすぎる！今じゃお嬢様になって、俺という夫を見下すようになったのか？お前が十六歳の時から俺のものだったじゃないか、子供だってできたんだ。これらすべて忘れたのか？」

「たとえお前が金持ちのお嬢様になったとしても、俺の妻だという事実は変わらないんだ。早く戻ってこい！もう逃げないでくれ、お前なしじゃ生きていけないんだ！」

男は手を伸ばして海鈴のスカートを掴もうとした。

皆は息を呑んだ。

この件が真実かどうかに関わらず、彼らは心の中でよく分かっていた。この男が理由もなくここに現れるはずがない、多くの来客が居合わせる中で、高倉海鈴の名声を完全に潰そうとしているのだと。

十六歳でこの男と付き合い、子供まで妊娠していた。そして金持ちのお嬢様の地位を得るために「夫」を捨てた。この話が広まれば、高倉海鈴は東京で社会的に破滅するだろう。

「海鈴、俺たちは青梅竹馬だろう。小さい頃、お前がいじめられた時、俺が守ってやったじゃないか。大きくなったら俺と結婚して、良き妻になると約束したのに、結婚してすぐに俺を捨てた！俺たちには沢山の素晴らしい思い出があるのに、お前は金のために俺を見捨てたんだ！」

彼は涙ながらに続けた：「お前がいなくなってからずっと探し続けてた。まさか...まさかお前が...」