第763章 彼こそが醜いもの

高倉海鈴はほっと息をつき、大きな笑顔を浮かべた。

高野広：「？」社長は差別待遇をしているじゃないか！

藤原徹は涼しい顔で尋ねた：「海鈴さっきはサイン会場に行ってたの？」

高倉海鈴は頷いたが、藤原徹がどうして出展者がサインを求められることを知っているのか不思議に思った。でもよく考えてみれば、藤原徹の立場なら、知らないことなんてないのだろう。冬島音のアイデンティティまで暴かれたのだから！

その後、二人は展示エリアに行って作品を鑑賞したが、高倉海鈴はずっと辺りを見回していた。まるで誰かを待っているかのように。

「今日来るって言ってたのに、どこにいるの？」高倉海鈴は独り言を呟いた。

藤原徹は意味深な笑みを浮かべて：「誰を待ってるの？」

高倉海鈴は率直に答えた：「もちろん冬島志津先生よ！さっきサインをしに行った時、担当者が私と冬島志津先生は師弟関係だと思い込んでいて、冬島志津先生がいつ来るかは私が知っているはずだと言ったけど、私は全然知らないのよ！私がこの名前を選んだのは、ただ冬島志津先生を尊敬していたからで、先生は私のことなんて全然知らないのに！」

「みんな誤解してるの。もし冬島志津先生が知ったら、私が先生の名声にただ乗りしていると思われちゃうわ！会ったら、必ず説明しなきゃ。」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、高野司がこちらに向かってきた。「社長、奥様、彼が来ました。」

藤原徹の目が沈んだ。「予想通りだ。」

高倉海鈴は高野司の言う「彼」が陸田進のことだと分かり、冷ややかに鼻を鳴らした：「陸田進が来たのは、冬島志津先生が現れるかどうか、彼の香水発売に影響があるかどうかを確認したいんでしょ？」

藤原徹は頷き、静かに言った：「ちょっと行ってくる。ここで待っていて。」

休憩室の中。

藤原徹と陸田進が向かい合って座り、空気が凍りつきそうだった。

陸田進は穏やかに切り出した：「藤原社長、陸田家がまもなく新製品を発売することはご存知でしょう。支持しないまでも、妨害はしないでいただきたい。陸田家は結局のところ、あなたにとって半分は家族なのですから。」

藤原徹は目を伏せたまま、一瞥する価値もないといった様子だった。

陸田進は長々と話したが、沈黙が返ってくるばかりで、表情は非常に険しくなった。