その時、若い男女が宴会場の隅に立っていた。他の人々は二人が誰なのか知らなかったが、伊藤家の人々はよく分かっていた。伊藤仁美の口元から笑みが消えたが、カメラの前ですぐに優しい笑顔を取り戻した。
「以前、従兄と従妹が勝手に家出をして、何年も伊藤家に戻ってこなかったけど、今になって伊藤家が良いと思い始めたのか、戻ってきたいみたいね。お母様、私はこの後ステージに上がらないといけないので、おじいさまに伝えてください。怒らないでほしいと。どう言っても従兄は伊藤家の血を引いているのですから」
伊藤仁美の言葉を聞いて、皆は何かを理解したようだった。この二人は既に亡くなった伊藤優太夫妻の子供たちだったのだ。
当時、伊藤優太夫妻が亡くなった後、この兄妹は少しも悲しむ様子もなく、遺産争いで伊藤家と仲たがいし、最終的に家出をした。伊藤の祖父は、この兄妹との関係を完全に断ち切ると宣言した。