第5章 古寺

廃墟となったトンネル........

張元清は少し慌てて辺りを見回した。突然見知らぬ環境に連れて来られ、誰でも動揺するものだ。

「トンネル?ここは怪談話に出てくる佘霊トンネル?」

松海市で生まれ育った彼は、もちろん十大怪談の一つである佘霊トンネルを知っていた。子供の頃、夜に寝ないでいたずらをすると、祖母が怪談で脅かしたものだった。

しかし、怪談が単なる儚い物語だということは置いておくとしても、佘霊トンネルについて言えば、張元清は数日前に父の墓参りで帰郷した際、佘霊トンネルを通り過ぎたばかりだった。

実際の佘霊トンネルがこんなに古びているはずがない。

「そうか、ここは霊界だ。本物の佘霊トンネルじゃない。」

狭苦しい環境に不安を感じながら、張元清は慎重に前進した。耳に聞こえるのは自分の寂しい足音だけ。

彼は歩きながら、自分の置かれた状況について、そして頭の中で聞こえた声が与えた情報について考えを巡らせた。

間違いなく、彼は超自然現象に遭遇し、怪談の世界に連れて来られ、神秘的な力によって与えられた任務を遂行することになったのだ。

「あの声は二つの任務を与えてきた。三時間生き延びること、そして霊界を探索すること。難易度Sランク、単独死亡タイプ.....この死亡型って言葉が怖いな。」

三時間生き延びるということは、極めて危険な状況に直面するということだ。

霊界の探索......おそらくこのトンネルを探索するということだろう。つまり、トンネルの中に危険が潜んでいるということか?

彼は静かに神経を研ぎ澄ませながら、同時に頭の中である疑問が浮かんだ:任務を完了すれば何か報酬があるのだろうか?

任務である以上、きっと報酬があるはずだ。

「うん、さっきのステータスパネルによると、私の職業は夜の巡視神だけど、レベルが1じゃなくて0だ。夜の巡視神になれるのが報酬の一つなのかな。夜の巡視神って何だろう?」

「兵さんの言った通りだ。このブラックカードは確かに人生を変えるものだけど、後半の話を見落としていた。これを使いこなすのは難しいって言ってたのは、危険度のことを指していたのか?」

張元清は既知の情報を組み合わせながら、静かに分析を続けた。

その時、彼の横にある古いキセノンランプが、電気系統の不安定さからか、数回点滅した。明暗が交錯する中、張元清はランプの下に鉱夫のヘルメットを被った人影が立っているのをかすかに見た気がした。

くそっ.......彼は驚いて飛び上がり、頭の中の思考が一瞬で途切れ、驚いた子鹿のように前方に数メートル走り出した。

振り返ってみると、キセノンランプは安定して光り続けており、もう点滅はしていなかった。

先ほどの鉱夫のヘルメットを被った黒い影は、まるで彼の錯覚のようだった。

この恐怖を経験した張元清は、もうこの不気味な場所に留まる勇気がなく、急いでトンネルの外へと向かった。

コツコツコツ......足音が静かなトンネル内に響き渡る中、張元清は一歩も止まることなく、そのまま五、六分ほど急いで歩き続けた。アーチ型の天井に取り付けられた古いキセノンランプが再び点滅したが、今回は鉱夫のヘルメットを被った人影は現れなかった。

「追いかけては来ていないのか?」

彼の心は少し和らいだが、立ち止まる勇気はなく、頭を下げて足早に歩き続けた。突然、地面を見つめていた彼の目が、心臓が止まりそうになる細部を捉えた。

オレンジ色のキセノンランプが彼の影を長く引き伸ばしていたが、その影の横には十数個の影が付き従っていた。

奴らはずっと私について来ていたのか?!

冷気が足から頭まで走り、全身の鳥肌が立った。張元清は顔が真っ青になり、「ドタドタドタ」と狂ったように走り出した。

ついに、前方にトンネルの出口が見えた。トンネルの外には霜のように冷たい月の光が差していた。

張元清は一気にトンネルを飛び出し、膝に手を当てて前かがみになって息を切らした。

息が整ってから周囲の環境を見回すと、丸い月が盆のように夜空に寂しく掛かっており、その光の下では星々も影が薄れていた。

生い茂る林が月光を浴び、大きな濃い影を落としていた。

彼は人里離れた山奥にいた。

トンネル内のキセノンランプが数回点滅してから、すべて消えた。大きなトンネルの入り口は漆黒で静まり返り、まるで獲物を選んで食らう獣の口のようだった。

「早く離れないと......」

張元清は背筋が凍る思いで、でこぼこした山道を登り始めた。

十数歩歩いた後、彼は再び振り返った。トンネルの入り口には、鉱夫のヘルメットを被り、ボロボロの服を着て、頭を垂れた人影が一列に並んで立っていた。

彼らは月光の届かない影の中に立ち、一言も発せず、まるで彼を見送っているかのようだった。

張元清は驚いて数歩後ずさりし、体を回転させて山の方へ走り出した。

山道の両側には枝葉が生い茂り、細かく砕けた月光が差し込んでおり、張元清が道を確認するには十分な明るさだった。

ただし、山の中は恐ろしいほど静かで、林の中には虫の鳴き声も鳥の声もなく、そのため張元清の足音が特に大きく響いた。

「静かすぎるだろう、この季節の山の中で虫の鳴き声すら聞こえないなんてありえない。」

彼は周囲を見回した。丸い月が盆のように輝き、木々の影がゆらめく中、暗闇の中から何かに見つめられているような気がしてならなかった。

どれくらい歩いたのかわからないが、体に薄い汗が滲むまで歩き続け、ようやく生い茂る林を抜けると、視界が一気に開けた。

月光が水のように降り注ぎ、周囲は死んだように静まり返り、でこぼこした山道の先には、一軒の廃れた古寺があった。

静かに暗闇の中に佇んでいた。

この古寺は何年も放置されていたのだろう。寺の前の大門は塗装が剥げ落ち黒ずみ、虫食い穴だらけで、軒先の提灯は地面に落ち、竹の骨組みだけが残っていた。

扁額はまだ残っていたものの、蜘蛛の巣に覆われ、軒下に斜めに掛かっていた。ただし、光が暗すぎて扁額に何が書かれているのかは読めなかった。

寺の門前の階段にはひびが入り、割れ目には雑草が生えていた。

この人里離れた山奥に、前後に村も店もないような場所に、なぜ寺があるのだろう。

待てよ.......寺?!

張元清は突然気づいた。耳元で霊界の情報紹介の声が聞こえてきたような気がした:

「寺に入ってはいけない、寺に入ってはいけない......」

「あの奇妙な声の指示によると、寺に入ってはいけないはずだ。いや、違う。トンネルはもう出てきた。ということは、私が本当に探索しなければならないのは、この廃れた古寺なのだ。」

寺の門前で長い間躊躇した後、張元清は慎重に足を進め、暗闇の中に佇む古寺に向かい、朽ちた敷居を跨いだ。

目に飛び込んできたのは広々とした前庭で、庭には腰の高さまである雑草が生え、半人ほどの高さの朽ちた香炉が草むらに倒れており、長年の風雨に晒されていた形跡が見られた。

足元には青石で敷き詰められた道があり、石の隙間からは野草が生い茂っていた。

目を上げると、枯れ草の間から青石の道の先に古びた本殿が見えた。基礎が高く、六段の階段があった。本殿の格子戸からは黄色い光が漏れていた。

「灯りが?」

周囲は静寂に包まれ、荒廃した風景の中、清らかな月光が降り注ぐ。このような環境の中で、その光は張元清に少しの温もりも与えなかった。

むしろ、より恐ろしく感じられた。

サワサワ.......

枯れた野草を踏みながら前進し、警戒しながら本殿へと向かう。広々とした空間の中、足音が特に鮮明に響いた。

サワサワ、サワサワ......突然、張元清は耳をそばだて、背後から足音が聞こえてきた。何かが彼を追いかけているようだった。

急いで振り返る。

夜の闇の中、荒れ草が生い茂り、後ろには何もなかった。

「気のせいか?」

張元清は恐怖に震えながらしばらく立ち止まり、再び歩き出した。

「サワサワサワ....」

また足音が聞こえてきた。今度ははっきりと聞こえた。確かに後ろに何かがいた。

.......まさか、こんな不気味なことが。神社に入ってすぐに怪しいものに出会うなんて?彼は振り返る勇気もなく、足を速めた。

後ろの足音も同じように速くなった。

張元清はもう我慢できず、鳥肌が立つと同時に全力で走り出し、本殿へと向かった。

後ろの足音は影のように、彼を追いかけてきた。

追いかけっこの中、張元清はすぐに荒れ草を抜け、本殿に近づき、六段の階段を二段飛ばしで上がり、ついに「ガラガラ」という大きな音とともに、本殿の格子戸を開け放った。

後ろの足音は突然消えた。

「ハァハァ、ハァハァ........」

彼は荒い息を吐きながら、ようやく振り返る勇気が出た。月光が庭園に降り注ぎ、荒れ草や石畳の道は、恐ろしいほど静かだったが、何もなかった。

「追いかけてこなくて良かった」

張元清は息を整えた後、静かに本殿の戸を閉めた。まるで恐怖を外に閉め出すかのように。

そして、本殿内の様子を見渡した。高い石造りの基座の上には、毛皮の外套を羽織り、豪華な衣装を身にまとったお后様が祀られていた。彼女は丸みを帯びた顔立ちで、細長い目をしており、慈悲深さが漂っていた。

このお后様は片手に払子を持ち、もう一方の手は何かを握るような形をしていたが、今は何も持っていなかった。

左右には剣を抱えた童子と、書物を持った侍女が立っていた。

基座の前には埃まみれの供物台があり、その上には燭台が置かれ、二十センチほどの長さで赤ちゃんの腕ほどの太さの蝋燭が、静かに燃えていた。

蝋燭の光が暗闇を追い払い、張元清の心の恐怖も和らいだようで、彼は感情が落ち着いてきたのを感じた。

左側の壁には、色あせてひび割れた二枚の木板が掛けられており、楷書体の文字が刻まれていた。

張元清は壁際に歩み寄り、黄昏の蝋燭の光を頼りにじっと見つめた。これらの楷書体は文語体で書かれていた。

彼は国語の成績が良かったので、半分は推測しながら読み、自分のいる環境について明確な理解を得た。

この山は三道山と呼ばれ、神社には三道山の女神様が祀られていた。

この山の女神様は明朝初期の松府の人で、松府の三道山で修行し、お札の法を極め、丹薬製造の術に通じ、雨乞いや悪魔祓いができ、この地方の豊作と平安を守護したため、民衆から神として崇められた。

彼女が昇天した後、地元の役所は三道山にこの神社を建て、「三道山女神様の神社」と名付け、女神様の衣鉢継承者が香火を管理し、神主を務めた。

「明朝初期の神社か、もう五、六百年経っているな」張元清は呟いた。

このとき、彼は無意識に供物台の下を見た。そして突然、背筋が凍った。

黒い影が台の下の影に横たわっていた。

先ほどは恐怖で気が動転していたうえ、蝋燭の光も暗かったため、最初は気づかなかった。

張元清は勇気を振り絞って近づき、よく見ると、骨だけになった屍骸だった。

張元清は恐怖の中にも安堵した。この不気味な山の神社と比べれば、屍骸はそれほど恐ろしくなかった。

数歩近づき、微かな蝋燭の光を頼りに、彼は骸骨の身に着けている服を確認した。埃まみれの作業着だった。

作業員か?

「これは当時の工事チームか?やはり私は怪談の世界に入り込んだのか」

張元清がそう推測した直後、さらに恐ろしい可能性を思いついた。もしかすると、当時の工事チームも自分と同じように、この場所に迷い込んだのかもしれない。

だからこそ都市伝説が残されたのだ。

もし前者なら、この所謂霊界は怪談に基づいて生成された場面ということになる。

しかし後者であれば、古寺は常に存在しており、工事チームも今の彼と同じように、被害者だったということになる。

山の神社の歴史的背景の説明から、張元清は後者の可能性が高いと考えた。

「工事チーム全員が神社で亡くなり、一人だけが生き残った。本当に死人が出る場所なんだ......今、私もこの神社に入ってしまった。いつ何時、未知の危険に直面するかもしれない......」

シュー~彼は冷や汗を流し、再び緊張が走り、無意識に周囲を見回した。

そして、突然ある恐ろしい細部に気がついた。

この古寺は明朝時代のもので、歴史が古い。なぜ蝋燭がまだ燃えているのか?誰が本殿の蝋燭を取り替えているのか?

考えれば考えるほど恐ろしくなり、慈悲深い表情の彫像までもが、蝋燭の光の中で不気味で陰鬱な雰囲気を漂わせているように感じられた。

三体の泥塑は埃まみれではあったが、生き生きとしており、細部まで生々しく彫刻されていた。特に目が。

彼らは基座の上に立ち、黄昏の蝋燭の光の中で、高みから張元清を見下ろしていた。