転生

「葉黙、葉黙、大丈夫か?早く起きろ、もうすぐ授業が始まるぞ。次はあの無情の氷の授業だ、早く起きろって」葉黙の耳元で、焦った声が響き、彼に奇妙な感じを与えてくれた。

「あのバカはどうせ、人前に出る顔もなくなったから、顔を隠してるかもな」もう一人の声が彼に耳に届き、これで葉黙はようやく目を覚ました。

葉黙は茫然と周りを見回したが、誰一人知っている人はおらず、全て見知らぬ顔ばかりだった。

その様子をした葉黙を見ると、他の人は一斉に笑い出した。その笑い声はどう考えても、明らかに彼に向けられたものだ。周りの人に笑われても、彼はしばらく声を出す勇気も出ず、誰かがその隙にからかうのを心配して、ただ警戒しているだけ。

隣に座っているクラスメートを見ると、彼だけは自分を笑っていない。さっきも親切に忠告して、起こしてくれた人のようだ。

「ここはどこだ?君は誰だ?なぜ学堂のようなところにいるんだ?」葉黙は驚いて思わず尋ねた。

「ハハハ……」またみんなが一緒に笑っている。

「葉黙、お前、さっきの事で頭がおかしくなったんじゃないのか。あの彦艶にラブレターを書くなんて、いい度胸してるよ。葉家の人間ならまだいいとして、今のお前はもう葉家の人間じゃないんだぞ。これからは気をつけろよ。次の授業は雲氷先生の英語授業だ。ヘマはするなよ」隣の席の学生が葉黙の耳元で囁いた。その声は葉黙にしか聞こえないほど小さかったが、本気で自分のことを心配しているようだ。

「本当に覚えていないんだ。さっき頭痛がひどくて、いろいろと忘れてしまった」葉黙は本当のことを彼に教えた。

隣席の学生はため息をついた。彼は葉黙があの短時間で、忘れるはずがないから、ただプライドのために言い訳してると思ってる。今の葉黙はまだ現実を受けいれ、葉家の人間じゃなくなったことに納得していないようだ。

葉黙の頭はまた激しく痛んだ。確か彼は師匠の洛影と一緒に回元丹を錬成していたはずだ。その後、西流門の連中が襲ってきて、爆発音と戦いの音が響き、最後に師匠が自分を抱きかかえて遁符を使ったことまでは覚えているが、なぜ自分がここに現れたんだろう?ここはまだ洛月大陸なのだろうか?

そういえば、自分がこの場所に来たけど、師匠はどうなったのだろう?師匠とは言え、自分よりたった三歳年上の女性だ。そもそも西流門が襲ってきた理由は、師匠があまりにも美しかったからだ。西流門の若様はその美しい師匠に結婚を申し込んだあげく、師匠に断られたことがきっかけだった。

もし師匠が西流門の手に落ちたら、想像もしたくない結果になるだろう。そう考えると、葉黙はもはや内心の動揺を抑えきれず、突然立ち上がった。

「まだ騒いてますか。チャイムが鳴っていますよ、聞こえなかったの?」清楚な容姿の若い女性教師が数冊の本を抱えて教壇に上がり、騒がしい学生たちに冷たい視線を投げた。すると、笑い声はたちまち収まった。この女性は英語講師の雲氷で、秩序を乱されるのが大嫌いだ。一度目をつけられたら、絶対にただでは済まない。

葉黙はこの時、何かの異様を感じた。この人たちの言葉は理解できるし話すこともできるが、明らかに自分が元々使っていた言語ではない。ここはもう洛月大陸ではないのだろうか?

眉をひそめながら、葉黙はもっと思い出そうとしたが、そうしたら頭痛が襲ってきて、様々な情報が記憶として蘇ってきた。

葉黙は、葉氏一族の三代目の子孫だ。父親の葉問天は二年前に他界し、母親の記憶は全くない。葉黙は父親の死後、完全に葉家から追放された。具体的な理由は、葉黙が葉問天の実子ではないからだ。

もっと正確に言えば、葉黙の父親が死んだ後、葉黙は遺伝子検査を再度受けさせられ、葉家の血筋ではないと判定されたことで、葉家から追放されることになったのだ。

彼には妹の葉菱と弟の葉子峰がいる。彼とは異母兄妹だが、葉菱と葉子峰は同じ母親から生まれた。三年前、父親は葉黙に償いたいようなことして、葉家の当主に寧家との縁談を提案した。その時、葉問天は既に余命少ないと感じたから、葉黙のために後ろ盾を探そうとして、京城の寧家に白羽の矢を立てたようだ。

華夏五大家族の一つである葉家との縁組みに、寧家は当然大喜びだった。その結果として、寧おじいさまの孫娘である寧軽雪は、葉黙に嫁ぐことになった。三年後の今では、二十二歳の寧軽雪は、京城一の美女となっている。

しかし葉黙は葉家の厄介者となってしまった。理由は単純だ。病院での健康診断で、葉黙は天萎であることが判明した。つまり、性的不能というわけだ。葉家は必死にこの事実を隠そうとしたが、一夜にして京城中の人々が知ることとなった。華夏五大家族の一つである葉家から天萎の者が出たということで、葉家はかなり面目を失った。

「なっ……」ここまで思い出すと、葉黙はつい叫び声を上げて立ち上がり、危うくその場でズボンを脱いで確認しようとした。要するに彼は同じ葉黙という名の人物の体に転生したようだ。性的不能な人に転生するくらいなら、死んだ方がましかも。

「そこの君、名前は何ですか。授業中に何叫ぶんでいるのですか。放課後は研究室に来なさい」授業中だった美人教師は、葉黙の叫びに邪魔されて、不機嫌な表情になった。

他の学生たちは内心でこっそり笑っている。もう大学生なのに、研究室に呼びつけるなんて、この英語教師にしかできないことだろう。でも行かないわけにもいかない、単位は彼女が決めているんだから。

葉黙は意気消沈して座り込んだ。彼は家族間の争いの裏についてはよく知らないが、自分が天萎だったので葉家から追放されたことくらい、何となく分かる。葉家の人間じゃないというのは、本当の理由じゃないかも。それに遺伝子検査の結果だって、偽られた可能性はある。

葉黙が心配しているのは、葉家から追放されたことではなかった。そのことについては、彼は全く興味を持っていない。彼が心配しているのは、自分が天萎であることと、師匠の洛影がどうなったかだけだった。

同時に、他の学生たちが笑った理由も分かった。それは、この葉黙だったはずの人物が、既に葉家から追放されているにもかかわらず、懲りずにクラス一の美人である彦艶を追いかけていたからだ。結果として、彼女は葉黙のラブレターを黒板に貼り出し、教壇に立って軽蔑的な目で自分を見て言った。「葉お坊ちゃま、私と一緒に寝てくれる?」

なるほど、それなら皆が爆笑するわけだ。おそらく元の葉黙はこの恥ずかしさで死んでしまったのだろう。天萎の人間に一緒に寝るとか誘っても、恥をかくのは誘われた方だけだ。たとえその人物は自分じゃなかったとしても、葉黙はやはり暗い顔になった。

彼は彦艶という名の女子学生を見た。確かに豊満な体つきをしているが、あの作り物めいた言動に、葉黙は反感を覚えた。なぜこの体の元持ち主は、あんな女を追いかけようとしたのか、まったく理解できない。

葉黙はすぐにその理由に気付いた。恐らくかつて、葉黙がまだ葉家にいた頃、彦艶を含むすべての人も、彼に取り入っていたからだった。後に天萎の噂が広まった後、彼はプライドのために、彼女を作ろうとした。しかし、思いもよらなかったことに、かつて彼に取り入っていた女子学生が、あのような仕打ちをしたため、ショックで気を失い、自分が転生する機会を作ってしまった。

まさか自分がこんな場所に転生するとは。

教壇上の美人教師の授業は、一言も理解できなかったが、たとえ理解できたとしても、葉黙は聞く気にはならない。自分が天萎だということは、絶対に受け入れられない現実だ。こんな形で転生するくらいなら、転生しない方がましだった。

自分の記憶を整理したら、葉黙の表情はますます暗くなった。天萎の問題はひとまず置いておくとして、ここは天地元気が希薄で、修練には全く適さない場所だ。まさか、この地球という場所で、意味もなく老いて死ぬことになるのだろうか?

この大学に通うか通わないかは、もはやどうでもよいことだ。最も重要なのは、自分の現況を把握することだ。彼の天萎は葉家の名誉に関わる問題なら、今は葉家から追放されているが、突然殺されることはないのだろうか?葉家から追放された裏には、他の内幕があるかもしれないし、自分の安全は保障されているのだろうか?

授業終了のチャイムが鳴った後、当然のことだが、葉黙はあの美人教師のところに行かなかった。彼は急いで学校を飛び出すことにした。本当に天萎なのかどうかを知るためには、自分の性器を確認できる場所を探さなければならない。

幸い寧海大学の近くには、路地裏はいっぱいある。葉黙は急いで人気のない路地裏に駆け込み、すこでズボンを下ろした。

確かに性器は小さいが、葉黙はそのことにがっかりしたわけでもない。むしろほっとして息をついた。彼は本当の天萎ではなく、性器が大きすぎて経絡を阻んだから、なかなか成長できず、こんな偽の天萎になったわけだ。洛月大陸で修道する前に、彼は医道の達人だったので、この状況は一目で理解した。

しかし、そうだとしても、現在の地球の科学技術では、この閉塞した経絡を開通させることは、到底夢のようなものだ。だがそれでも、葉黙にとって難しい問題ではない。今は閉塞した経絡を開いて性器を雄々しくする能力はないが、彼の実力が練気三層に達すれば、この経絡は自然に開通するはずだ。

ただし、葉黙はすぐにまた落胆し始めた。地球のような天地元気が極めて希薄な状況下で、練気三層まで修練することは、間違いなく困難な課題だ。おそらく一生かかってもその境界に達することは無理だろう。そんな場合、彼はやはり天萎のままだ。

ため息をつきながら、葉黙はズボンを上げようとしたが、突然の悲鳴でつい震え上がった。

「この変態!」極めて高い女性の声が、葉黙の耳まで響き渡った。葉黙は先ほど自分の性器を確認することに夢中で、周囲の状況を確認することを忘れていた。思いがけないことに、この路地裏は他の路地とも繋がっていて、路地裏の奥には、曲がり角は隠されているが、ここからは見えなかっただけ。

葉黙は露出狂ではないし、今の体質では人に見せつけそうなものもないから、急いでズボンを上げて逃げ出そうとした。

「葉黙、あなただったの?」悲鳴を上げた女性は、驚いた口調で尋ねた。どうやら彼女は葉黙のことを知っていたようだ。