最初のダンス

「教えてあげてもいいよ」蘇静雯は一瞬ぼうっとしたあと、すぐに気付いた。彼女には分かっている、これは単なる口実だ。もし他の人が先に声をかけて彼女とダンスをしようとしたら、断りづらくなってしまう。

案の定、蘇静雯の言葉が出た途端、周りの人は彼女を見つめた。あの人にダンスを教える？こんな短時間で覚えられるのだろうか？

「静雯、こうしよう。最初のダンスはもうすぐ始まるから、俺が付き合おう。後で専門のダンサーを何人か呼んで、葉黙に教えてもらえばいい」突然、汪鵬が話しかけてきた。彼がいつ来たのかは分からない。

なぜ彼が来たのか？葉黙が汪鵬を見ると、汪鵬も冷たい目で見返してきた。その目には明らかな警告の色が浮かんでいた。

葉黙は警戒心を抱き始めた。それは汪鵬の敵意に対してではなく、汪鵬の手が治っていることに対するものだ。彼に何をしたのかは、葉黙自身がよく知っている。彼はその男の骨に少量の真気を残していたから、現代医学ではその真気を取り除くことは不可能なはずだ。

彼の手首を完全に治すことができるのは、内門の名家か、真気を修練した強者か、あるいは修真者しかないはずだ。

こんな人もいるとは。どうやら今後はより慎重にならなければならないようだ。

ここの修行者がどの程度の実力を持っているのか、彼はまだ分からない。そのため警戒心を抱いている。修真者は見つかっていないようだが、誰がそれを確実に言えるだろうか？彼自身だって都市に潜む修真者ではないか？そして世俗の武術の中には、極限まで修練すれば、一般の修真者でも太刀打ちできないものもいる。葉黙は両方を兼修しているとはいえ、油断は禁物だ。結局のところ、彼の修為はまだ低いのだから。

「いいえ、葉黙は私が教えてあげる、そうでしょ？」蘇静雯はすぐに汪鵬の提案を断り、依然として葉黙を見つめながら言った。

葉黙は軽く微笑んだ。もし汪鵬が来ていなければ、短時間では覚えられないと言ったかもしれない。しかし汪鵬が来て、しかも彼を敵視しているのなら、葉黙も引き下がるわけにはいかない。もし汪鵬が面倒を起こすなら、彼の裏にいるあの修行者と、一戦を交えることも厭わない。