方家屋敷。
「断られたのか?」
方夕は険しい表情で阿福を見つめていた。
阿福はうつむき、恐縮した様子で言った。「わたくしめは多額の金を使い、仲介人に頼み、さらに金を積むことも約束いたしましたが、ままならず…」
方夕は深く息を一つ吐いた。
修行者として、このような屈辱を受ける謂れはない…。いや、青竹山坊市では日常茶飯事、もう慣れっこだがな。
慣れとは恐ろしいものだ。
「仕方ない、私の資質が凡庸で、眼鏡にかなわなかったのだろう。」
彼は肩をすくめてみせた。
修行者たるもの、最下級とはいえ、耳聡目明、一度見たものを忘れないの力くらいは持ち合わせている。
以前、人に頼みごとをした際に、値踏みするような視線を感じた。
だが、どうやら気血武者には独自の資質の見極め方があるらしく、記憶力や悟性といった類の非凡さを見せる機会は与えられなかった。
「つまり、この世界の武師は、悟性や精神面よりも肉体的な資質を重んじるということか。道理で下級の体修行者などと…」
方夕は精神勝利法を試み、効果は覿面だった。
その後、彼はフッと笑った。「まあいい…元合山が駄目なら、武館に行くさ。武館で弟子入りするのに、まさか資質まで問われることもなかろう」
ここで、阿福もつられて笑った。「旦那様の仰せの通りで。武館ときたら、門戸開放を謳っておりますからな。金さえ積めば、誰でも受け入れるというわけで」
方夕は口元に満足げな笑みを浮かべた。「あいにく、金なら腐るほどある!」
…
午後。
日が高く昇った頃、方家屋敷の裏庭、即席の演武場では――
方夕は寝椅子にゆったりと身を預け、傍らにはお手製の果物入りスムージー。原理は自作のエアコンと似たようなもので、どちらも修行者の技で、暮らしを少しばかり快適にするためのものだ。
真夏のうだるような暑さの中、冷たい果物スムージーを一杯飲めば、心まで涼しくなるというもの。
演武場には数人の武師が控えており、その多くは中年、中には年配の者も混じっている。いずれも、幾分媚びを含んだ視線を彼に向けていた。
方夕は顔を横に向け、月桂が差し出したスムージーを一口啜り、パンと手を叩いた。
阿福が進み出て、咳払いをした。「旦那様は武術を習いたいと仰せだ。皆様は武館でも指折りの達人ばかり、何か得意技があれば、ご披露願いたい。旦那様のお眼鏡にかなえば、破格の謝礼を…もし選ばれずとも、後ほど心ばかりの謝礼はお渡しする」
金持ちの道楽、わざわざ武館に通って大勢と稽古するまでもない。個人指導(プライベートレッスン)と洒落込むのさ!
これを聞き、筋骨隆々の武者たちは、ここぞとばかりに目の色を変えた。
武館を開いているからには、金儲けのため。金に逆らうような真似はしない。
しかも、この方旦那ときたら、札付きの…太っ腹とくりゃあ!
その言葉に、武術家たちは互いに目配せし、黒ずくめの老人が逸るように進み出て、一礼した。「あっしは紅蛇武館の佘雷と申します。『紅蛇脚』には自信がありやす!」
老人は一本の木杭の前に立つと、にわかに右脚を高く振り上げ、盛り上がった筋肉で黒い袴がはち切れんばかり。
シュッ!
次の瞬間、老人はしなやかな蹴りを繰り出した。武骨な右脚は、まるで骨がないかのように自在に形を変え、鞭のように鋭く空気を切り裂き、強烈な風圧を伴って木杭に叩きつけられた。
バン!
太い木杭は瞬く間に粉々に砕け散った。
木屑が舞い散る中、佘雷はしてやったりとばかりに口を開いた。「あっしの紅蛇武館の『紅蛇脚法』は、主に足腰を鍛え上げやす。ひとたび習得すれば、威力はもとより、身術も目に見えて速くなりやす。勝負の場でも、そうそう負けは取りやせん…」
「ほほう、悪くない」方夕は目を細めた。
この『紅蛇脚』、威力は彼の庚金草薙剣のような小術には及ばぬが、何分こちらは練気期初期。法力にも限りがあり、そうそう法術を連発できるわけでもない。
見るからに、あの老いぼれ、まだまだ蹴り続けられそうだからな。20、30発は軽いだろう。こいつは、なかなか使い道がありそうだ。
「やはり、思った通りだ。この気血武道とやら、練気期の練体功法とみなせば、なかなかどうして捨てたものではない。…もしかすると、突き詰めれば築基期の体修に匹敵する功法もあるやもしれん」
方夕の心に熱いものが込み上げてきた!
築基期!
これこそ、全ての低段位下級修行者の悲願。
しかし…この関門はあまりにも険しい。
六十歳までに練気期大円満の境界に至るという最低条件だけで、大抵の無所属修行者は脱落してしまう。
しかも、独力で築基期への突破を目論めば、失敗はすなわち死。確実に築基を成功たらしめる築基霊物、ことにも築基丹は、大きな勢力が牛耳っており、かの司徒家とて、築基丹一粒手に入れるには、大きな犠牲を払わなければならない。
取るに足らぬ無所属修行者など、その匂いを嗅ぐことすら叶わぬ夢。
だが今、方夕の目には、裏道が見えた!
「もし俺が練体修為を練気期後期修行者に匹敵するレベルまで高め、さらに練気期中期と後期への突破を助ける丹藥功法を集めれば、ずっと簡単になるだろう」
「もし俺が先に築基期の体修になれれば、その後で築基丹を探せば、希望はずっと大きくなるし、安全性も高まるだろう」
「希望はまたたっぷりあるぞ!」
二つの世界の資源を掌握しているが、方夕は南荒修行界の食物連鎖の底辺にいる自分の身分を忘れていない。今はまだ大涼の特殊な資源を南荒修行界で販売する勇気はない。
さらなる力を手に入れぬ限りだな…
今、彼は希望を見た。
「佘師匠、見事な腕前!褒美じゃ!」
上機嫌になった方夕は、声を上げた。
元々、佘雷は些か不服であった。売り物の身とはいえ、江湖の大道芸人よりは上と自負しておったからじゃ。
しかし、阿福がにこやかに銀子を盛った盆を捧げ持って現れるや、たちまち不満など霧散し、老いぼれ顔の皺という皺が喜色に緩む。
この旦那、まこと太っ腹よのう!
この光景を見て、武館の代表たちは皆、羨ましがった。その中で、背の高い女性が前に出て言った。「私は白雲武館の慕縹緲と申します。我が白雲武館は『白雲掌』を得意としており、柔よく剛を制し、門に入りやすきこと、この上なし…」
明らかに、この女武師は客のニーズを詳しく調べており、方夕の武道の資質があまり良くないことを知っている。さもなくば、元合山に袖にされることもなかったろう。いきなり要点を突いてきおった。
さらに、この女が掌法を繰り出すその姿、豊満な肢体を惜しげもなく晒し、高く張った双つの峰が、そこはかとない媚びを感じさせる。
これには、他の武師どもも、心の中で「けしからん女め」と毒づきながら、ついつい目を奪われてしまう。
慕縹緲が下がると、また一人の武師が進み出た。
「あっしは袁天鋼、『無極棍』を得意としております…」
「私は易求決、『鉄線拳』に精通してありやす…」
「我が『青衣剣』は…」
…
最後の武師の演武が終わった後、方夕は少し考えてから尋ねた。「皆様の武功、いずれも見事ですが、全て学ぶことは可能でしょうか?」
金なら腐るほどあるゆえ、ことごとく学んだとて差し支えなかろう。
「それは…」
武師たちは顔を見合わせ、慕縹緲がすらりと伸びた足で進み出て、言う。「方様、気血武道は消耗が非常に激しく、一つの武功だけでも体を衰弱させる可能性があり、大量の補薬が必要です。欲張り過ぎては咀嚼できません。さらに、いくつかの武道は気血の運行が互いに相反しており…」
「ほほう」
慕縹緲の説明を聞いて、方夕はようやく理解した。
この気血武道、やはり色々と制約があるものよの。
どうやら、まだ奥の手がありそうじゃが、おそらく本当に入門してはじめて得られる知識なのだろう。
彼は少し考えてから、最後にこう言った。「それならば、まずは脚法を一つと掌法を一つ学ばせていただきましょう…佘師匠、慕師匠、お二方は残りください」
これを聞いた他の武師たちは、心中では不満を感じていた。
佘雷はまだしも、先陣を切って名乗り出たからには、武功に自信があるのだろう。
慕縹緲とやらは、ただ足が長く、胸が大きいだけではないか。
金持ちの道楽とは、こうも露骨なものか。
…
武師たちが不満を抱きながら去った後、方夕は佘雷と慕縹緲をじっくりと観察した。「佘師匠、慕師匠…稽古の費用は本日より数え、三日に一度、こちらへ通っての教授、いかがかな?」
ここで初めて、彼は二人をよく見た。
佘雷は運功していない時は、ごく普通の小柄な老人だった。
翻って慕縹緲は、肉付きの良い均整の取れた体つき、凛とした健やかさを感じさせ、目鼻立ちも整っておるが、惜しむらくは肌が少々荒れておる。
「承知いたしました」
慕縹緲は少し考えてから言った。「『紅蛇脚』は、主に足腰に気血を巡らせるもの。本門の『白雲掌』とは相性も良うござんす。されど、あまり欲張ってはいけません。後期、気血が乱れ、障りとなりましょう…」
ここで、方夕も少し落ち込んだ。「気血は主に両足と両掌法を鍛える…全身の気血を鍛える武功はないのか?」
このような練体法門は、欠点が大きすぎる。肝心なのは、防護法術に不利なことだ!
慕縹緲と佘雷は顔を見合わせ、小柄な老人が咳払いをして「実は…気血武道であれば、主要な部位を鍛える際に、必ず全身の血気を鍛える効果も伴います。本当に全身を均一に鍛えるには、それはもう我々の武館が伝える三流の武功ではなく、一流の密伝の真功となります。おそらく…元合山の秘蔵の密武なら、そのような境地に達することができるでしょう」
「そうですか…」
方夕はふぅと息を吐き、密かに心を決めた。
本当の秘伝が欲しいだけなら?
いずれ、手に入れてみせようぞ。
何となれば…修行者の術は、この世界の武者どもが耐えうるものでもあるまい。
もとより、これには時をかけ、試す必要があろう。焦りは禁物じゃ。
とにかく、彼はまだ若く、この体はまだ17歳だ。修行者ともなれば壽命が長く、練気期修行者の身でも、80歳、90歳は生きられよう。