定州、老龍潭。
夜明けの星が消えかかる頃、一片の烏雲が遠方から漂ってきて、潭の上空に停まった。
方夕は黒雲兜に乗り、自身の姿を隠しながら、静かに老龍潭を観察していた。
情報を得ただけで愚かにも妖王と闘法をしに来るはずがない。
もし蛟龍が道理を弁えず、築基期に突破していたらどうする?
だから、自分の目で確かめなければ安心できない!
時が経つのも忘れるほど。
明月の下、月光は水のように輝いていた。
ザバッ!
突然、鏡のような老龍潭の水面に、幾重もの波紋が広がった。
水面が裂け、巨大で獰猛な漆黒の蛇の頭が現れ、続いて水がめほどの太さの胴体が、十丈近くにも及ぶ長さで姿を見せた!
老龍潭の蛟龍王!
「なかなかの大蛇だ!」
黒雲兜の中で、方夕は安堵した。相手の気配は強いものの、練気期の限界を超えてはいなかった!
その時、巨蛇は輪を描くように体を巻き、頭を高く上げ、冷たい縦瞳で月を見つめながら、紫色の舌を出していた!
シュッシュッ……
シュッシュッ……
この巨蛇は、月華を吸収しているようだった!
さらに方夕を驚かせたのは、巨蛇の頭上に二つの小さな隆起があることだった!
「なるほど、蛟龍と呼ばれる理由だ……本当に蛟龍の血脈を持っているのか!」
「これは当たりだ、この妖獸は相当な霊石の価値があるぞ!」
「他の修行者が見たら、必ず我先にと捕まえて靈獸郷にしようとするだろうな?やはり龍の血を引く妖獸は皆強く、成長も早い、ほとんどが二階以上になるからな……」
方夕は、この蛟龍が二階に昇れない理由は、完全に大涼世界に阻まれているからだと推測した!
南荒修仙界なら、とっくに二階を突破し、三階になっていた可能性すらある!
「よし、これでいい!」
翌日、朝日が昇った。
のんびりと水潭に戻っていく蛟龍王を見送りながら、方夕は黒雲兜に乗って、ゆっくりと離れていった。
老龍潭から遠くない谷間に、一つの軍営があった。
皮鎧と鎧甲を着た数百人の元合山の弟子たちが、厳格な規律の下で行動していた。
方夕は軍営の端に降り立ち、門口まで来た。
通報すると、令狐山がすぐに出迎えに来た。
彼も一式の金属鎧を身につけており、まるで鉄の缶に猿が住んでいるかのような、何とも滑稽な姿だった。