この暴君

聞き覚えのある声に、林翔太はまるで幽霊でも見たかのような表情で、椅子をひっくり返して立ち上がった——

「うそだろ！由…由衣！？」

まさか？

「整形したのか！？」林翔太は目を丸くした。

でも、そんなはずはない。整形手術がそんなに早く効果が出るわけがない。数日前に会った時は、まだあんなひどい姿だったのに。

雨宮由衣は怒り心頭で言った。「あんたこそ整形したんじゃないの！？私は元々この顔よ！それに、私がどこが太ってるって言うのよ、はっきりさせなさい！」

庄司輝弥のいつも気だるげな表情に、一瞬の戸惑いが浮かんだ。

少女の瞳には、まるで炎が燃えているようだった。久しぶりに見る、生き生きとした輝き。

怒り狂っていた雨宮由衣は、ひんやりとした手のひらが自分の頭を優しく撫でるのを感じた。まるで怒り狂った小動物をなだめるように。

同時に、耳元で心地よい低い声が響いた。「太ってない」

雨宮由衣は驚き、庄司輝弥をじっと見つめた。

どうかしているのだろうか？今の庄司輝弥が…優しく感じるなんて…

我に返った雨宮由衣は、自分が少し興奮しすぎていたことに気づき、照れくさそうに呟いた。「私は今、太ってないし…」

「前も太ってなかった」

隣にいた林翔太は真剣な顔で言った。「輝弥、もう一度、自分の心に聞いてみてください！」

雨宮由衣は悔しそうに歯を食いしばった。

庄司輝弥はゆっくりと林翔太の方を見て言った。「東区のあの土地は、もう遠達に譲った」

林翔太は呆然として言った。「え？何言ってんだよ、輝弥！俺にくれるって約束したじゃないか！どうして他の会社に？もう遠達にあげちゃったのか？それとも、今決めたのか？」

「今だ」

「！！！」

マジかよ！俺が由衣のことをデブって言ったから？

「あ…あなたは…この暴君！」林翔太は怒り狂った。

庄司輝弥は反論するどころか、その呼び名を気に入ったようで、冷淡な表情で言った。「もう行け、邪魔だ」

暴君なだけじゃなく、女に目がくらんで友達を捨てるなんて！邪魔扱いするなんて！

林翔太はひどく傷つき、泣きながら走り去った。

林翔太が去った後、リビングには雨宮由衣と庄司輝弥だけが残った。

さっきまで林翔太がいたのでまだ良かったが、彼が去ってしまうと、雨宮由衣は急に緊張し、隣にいる男の存在感が増した。

「もっと食べろ」

皿に、彼女の大好物である、ある朝食屋さんの限定小籠包が一つ置かれた。

雨宮由衣は複雑な気持ちだった。

彼女が現れてから、庄司輝弥は彼女の変化に対して、何の反応も見せていなかった。

林翔太のような反応が普通なのではないか？

雨宮由衣は我慢できずに聞いてみた。「輝弥、私の何かが変わってると思わない？」

庄司輝弥は餃子を彼女の皿に取って、「何が？」と聞いた。

「私の見た目よ！」

庄司輝弥は眉を上げて、「どこか違うか？」

「…」雨宮由衣は言葉を失った。

この人、目が見えてないの？

男はむっとしている少女を見て、ちらりと視線を送り、そして何気なく言った。「相変わらず綺麗だ」

「…」

綺麗！？

あんなひどい姿の自分でも、彼は綺麗だと思っていたというの？しかも、今の自分と何も変わらないと思っているなんて！

雨宮由衣は、ある変態の悪趣味に唖然とした…