つまり、今まであんなに苦労してきたのは、全て無駄だったってこと?
雨宮由衣は死にたくなった。
今回気づいてよかった。そうでなければ、一生あのままだった。
「なんだ?何か文句でもあるのか?」
「いえ!」雨宮由衣は不満そうに答えた。
「ふ…」男の低い笑い声が耳元で聞こえた。
雨宮由衣は驚いて男を見た。
いつもより輝いて見える男の顔には、いつもの不気味さも、凶暴さも、虚ろな冷たさもなかった…庄司輝弥が笑っている…
さっきから気になっていたが、今日はやけに機嫌が良い?
昨日の夜、よく眠れたからだろうか?
実は、庄司輝弥の怒りっぽい性格は、彼の不眠症と大きく関係している。あんなに長い間、まともに眠れないなんて、誰だって耐えられない。
ここまで考えて、雨宮由衣の心は動き始めた。
今日の庄司輝弥は機嫌が良いようだ。この機会に、外出禁止を解除してもらえないだろうか?
この前、彼女が逃げようとしたことで、庄司輝弥は激怒し、彼女を家に閉じ込め、学校にも行かせないようにしていた。
さっき降りてくる前に、クラス委員長からメールが届いていた。学校に来なければ、停学か退学になるかもしれないと。
成績が悪すぎて、彼女は2年も留年し、20歳になってようやく高校3年生になった。
前世、彼女が夢中になっていたのは、黒田悦男のことだけだった。
庄司輝弥と出会う前は黒田悦男に夢中で、出会った後は彼の元へ逃げようとしてばかりで、勉強など全く頭になかった。しまいには学校にも行けなくなり、大学受験も諦めた。
今度は、前世のように自暴自棄になって、自分の人生を棒に振るわけにはいかない。雨宮家の全てを雨宮望美(あめみや のぞみ)と黒田悦男に奪われるのを見過ごすわけにはいかない。
今回は逃げようとして庄司輝弥を怒らせてしまったが、黒田悦男とは行かなかった。だから、まだ庄司輝弥との関係は修復できるはずだ。ここは一つ、頑張ってみるべきだろう。
雨宮由衣は深呼吸をし、恐る恐る切り出した。「あの、輝弥、もうすぐ大学受験だから、勉強に集中したいんだけど…学校へ…行ってもいい?」
彼女の言葉が終わると同時に、部屋の空気が凍りついた。男の顔は、いつものように冷たく険しくなった。
雨宮由衣は心臓がドキッとした。やはりダメか?
それも当然だろう。庄司輝弥が、彼女が勉強のために学校へ行きたいと信じるはずがない。また逃げ出すつもりだと思っているに違いない。
簡単にはいかないだろうとは思っていたが、それでも雨宮由衣は少しがっかりし、表情が曇った。大好きな小籠包を見ても、食欲がわかなかった。「ダメなら仕方ないか…」
しかし、庄司輝弥の表情は良くなるどころか、ますます険しくなった。
せっかく少し良くなった関係をまた壊したくはなかったので、雨宮由衣は慌てて言った。「ただの冗談よ」
庄司輝弥は何も言わず、少女の曇った瞳と、焦って諦める表情を見ていた。さっきまで生き生きとしていた表情が、いつものように戻ってしまった。彼はどうしようもなく苛立ちを感じた…
雨宮由衣はため息をついた。この男は本当に扱いにくい。諦めたと言っているのに、どうしてまだあんなに怖い顔をしているのだろう?