こ……こんなことがあり得ない!
井上和馬はそのメッセージを見つめ、まるで幽霊でも見たかのような表情を浮かべた。
彼の頭の中には、あの死ぬほど甘ったるい恋の詩が何度も繰り返し響いていた。
「これは……」井上和馬は目を丸くした。
あまりにも信じがたいことだったからだ!
雨宮由衣のこのラブレターは、他の誰かではなく、自分の当主に宛てたものだったのか?
井上和馬の様子の変化は当然、庄司輝弥の注意を引いた。男の声は低く沈んでいた。「寄越せ」
庄司輝弥の冷たい視線を感じ、井上和馬は躊躇う余裕もなく、すぐさま恭しく両手で携帯電話を差し出した。
男は携帯電話を握る指に力を込め、少し間を置いてから、ようやくひび割れた画面越しにメッセージの内容を見た。
メッセージには一枚の写真が添付されており、その写真に写っていたのは、先ほど彼の五臓六腑を灰燼に帰したあのラブレターだった。
男の瞳が危険な色を帯びて細められたが、その時、彼の視界の端に一つの名前が映った——由衣!
由……衣……
送信者欄のそのニックネームを確認した瞬間、男の陰鬱で冷たい表情は凍りついたように、驚愕の色に変わった。
このメッセージは……
雨宮由衣が送ったものなのか?
思わず指を動かして下にスクロールすると、ラブレターだけでなく、その下には甘々なハートの絵文字まで付いていた。
彼女が再び自分を裏切った証拠のはずの、黒田悦男宛てのラブレター……
それは……彼に宛てたものだった!
衣となりて領とならん、華首の余芳を承けん;裳となりて帯とならん、窈窕の纤身を束ねん;髪となりて艶となりて、玄鬓を颓肩に刷らん……
男が呆然とした表情を浮かべている時、続けて新しいメッセージが届いた——[九様九様~どうしてまだ返信してくれないの?私の書いたの、上手でしょ~褒めて褒めて、チューもして~]
先ほどまで隅で震えていた使用人たちは、今や顔を見合わせ、なぜ先程まで世界を滅ぼすかのように怒っていた当主様が、突然静かになり、さらに表情を変えながら携帯電話を何度も見つめているのか理解できなかった。まるでその携帯電話から花でも咲くかのように。
井上和馬も庄司輝弥が今どんな心境なのか分からず、おそるおそる声を掛けた。「九様、その……」
庄司輝弥:「静かに」
井上和馬は即座に口を閉ざした。