第67章 オオカミが来た

雨宮由衣が突然行き先を変更したと聞いて、運転手はハンドルを切り替え、仁愛病院の方向へと車を走らせた。

「お嬢さん、どうして急に病院に行くことにしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」運転手は少し心配になり、一言尋ねた。

「いいえ、私の彼氏のことなんです。彼、不眠症に悩んでいて。仁愛病院に名医の漢方医がいると聞いたので、相談してみようと思って」

「そうですか。お嬢さんの彼氏は幸せ者ですね!」運転手は続けて褒めた。

雨宮由衣は微笑んで黙ったまま、ただ窓の外を淡々と眺めていた。

すぐに、車は仁愛病院の入り口で停まった。

雨宮由衣は今、素顔のままで、ピンク色のワンピースを着て、愛らしく立っており、とても目立っていた。

陰に隠れていた沢田夢子は、ほぼ即座に彼女を見つけた。

雨宮由衣の人目を引く姿を見て、沢田夢子の瞳の奥に一瞬陰鬱な色が浮かんだが、予想通り大人しく来たのを見て、すぐに軽蔑的な嘲笑を浮かべた。

どんなに綺麗でも所詮バカ女、彼女の思い通りに踊らされているだけ。

沢田夢子は雨宮由衣が仁愛病院に入るのを目で確認してから、やっと安心して携帯を取り出し、庄司輝弥にメッセージを送った:[庄司様、由衣は今あなたと一緒にいらっしゃいますか?私はちょっと体調が悪くて病院に来たんですが、偶然由衣によく似た人を見かけまして。本人かどうかわからないんですが、電話も繋がらなくて心配で。もしかして病気なのでしょうか?]

彼女はもちろん直接離間を図るほど愚かではなく、庄司輝弥自身に気付かせる方法を選んだ。

認めたくはないが、庄司輝弥は確かに雨宮由衣のことを非常に大切にしている。もし由衣が病気だと知れば、きっと病院に探しに来るはず。

そうして、心配して来てみれば、雨宮由衣が黒田悦男と愛を語り合っている場面に出くわす...そんな光景は、きっと面白いだろう...

このメッセージを送った後、沢田夢子は胸を張って立ち去った。

ふん、雨宮由衣のバカは、まだ私のことを親友だと思っているのよ。死ぬまで私のことなんて疑いもしないでしょうね!

しかし、沢田夢子は夢にも思わなかっただろう。病院二階の窓際で、雨宮由衣は彼女が隅で携帯でメッセージを送り、それから得意げな表情で立ち去るまでの一部始終を見ていたことを。