ここまで話して、井上和馬の表情は複雑になった。「あの漢方医はとても有名で、不眠症の治療を得意としていました。最初は九様の診察もされていたんです……雨宮さんが診察を受けた時の監視カメラの映像も取り寄せました……ご覧になりますか……」
井上和馬は携帯の監視カメラの映像を再生した。
雨宮由衣はリュックを背負い、厳かな表情で漢方医の前に座った。
「お嬢さん、どこが具合悪いのかね?」漢方医が尋ねた。
「先生、私が具合悪いんじゃないんです。誰かの代わりに来たんです!」雨宮由衣が答えた。
「お嬢さん、診察は本人が来なきゃいけないよ」漢方医は眉をひそめた。
雨宮由衣は急いで説明した。「先生、お話を聞いてください。実は、私の彼氏がひどい不眠症なんです。たくさんの医者にかかって、いろんな方法を試したけど、効果がなかったんです。先生はとても有名だから、きっと彼も前に診てもらったと思います。私が来たのは、不眠症についてもっと知りたかったからです。彼の気持ちを理解したくて」
老医師は彼女の言葉を聞いて驚き、感動した様子を見せた。「君は本当に思いやりがあるね。こんなに心配してくれる患者の家族は珍しいよ。よし、詳しく説明してあげよう!」
「ありがとうございます!」少女は嬉しそうな笑顔を見せ、ノートとペンを取り出して、真剣にメモを取り始めた。
老医師は彼女の真摯な態度を見て、詳しく説明を始めた。
少女は終始真剣な表情で、時々的確な質問をした。「おばあちゃんが言うには、長期の不眠は性格にも影響するんですよね?」
老医師は頷いた。「そうだよ。深刻な場合は、体に悪影響を及ぼすだけでなく、長期的には性格や心理状態にも大きな影響を与える。これは本人でもコントロールできないことだから、家族は理解を示し、気遣い、忍耐強く接することが大切だ」
「はい、必ずそうします。前は私、よく彼を怒らせてしまって……」少女は申し訳なさそうな表情を浮かべた。「試験勉強の時、一週間連続で毎日3、4時間しか寝なかったことがあって、その時の睡眠不足の辛さは本当に大変でした。先生、もっと教えてください。彼を少しでも楽にしてあげられることがあれば」
……
十数分の監視カメラの映像が終わり、部屋は静寂に包まれた。
少女の思いやりの言葉が、まだ耳に残っているようだった。