抗議書が加瀬東のところに届いたとき、彼は表情を苦悩させながらも、結局は目に入れたくないと横に放り投げた。
昨夜あの男が自分を見つめていた眼差しを思い出すと、今でも全身が震える。さらにあの男の顔と威厳を思い出すと、余計な考えなど浮かぶはずもなかった……
雨宮由衣本人については、皆が騒いでいるのを見て、目を輝かせながら興奮して、密かに思った。よかった、早く連名で抗議してくれ、私も署名できないかな?
もちろん、彼女が証拠隠滅するのを恐れて、抗議書を彼女に渡すことはないだろう。
抗議書が一巡りすると、びっしりと署名で埋まっていた。藤原雪の取り巻きが代表として、興奮気味に抗議書を二宮晴香のところへ持って行った。雨宮由衣の前を通り過ぎる時、得意げで嘲笑的な表情を浮かべていた。
すぐに最後の授業の時間となった。
雨宮由衣の興奮していた気持ちは、一気に萎えてしまった。
最後の授業は三上周威の数学だった。
サボりたいなぁ……
でも、すごい大学に合格できなければ、家に帰る顔がないと思うと、すぐに歯を食いしばって教科書を開いた。
生まれ変わってから、両親に会いたい一心で昼夜問わず必死だった。両親の前に跪いて懺悔したかったが、自分のやってきた愚かな行為は、彼らの許しを得る資格などなかった。
顔向けできないし、このような惨めな姿で帰りたくもなかった。彼女は両親の誇りになりたかった。負担や汚点になりたくはなかった。
三上周威は数学の係に問題集を配らせ、「今日は各自で問題を解いてください。終わったら、その場で解説します!」
雨宮由衣は数学が全く分からず、数字を見ただけで頭が痛くなり、本能的に避けたくなる。今、必死に問題文を読もうとしているところ、クラスで突然歓声が上がった——
「あっ——庄司夏!」
「庄司夏が来た!」
「あぁ!私、なんか庄司夏が今日……今日……」
「超イケメン!」
……
「先生、遅れてすみません」ドアの所から少年の澄んだ声が聞こえた。
雨宮由衣は騒がしさに邪魔されて、思わず顔を上げてドアの方を見た。
次の瞬間、雨宮由衣は目が眩んだような気がした。
まぶしさで目が眩んだのだ。
なるほど、女子たちが急にこんなに興奮するわけだ。
目の前のこの人は……
いつもと同じような格好なのに、なぜか今日は何か違う気がする。