雨宮由衣はまだ眠くなかったので、小さな湖のほとりに座って考え事を続けていた。
ぼんやりしていると、突然後ろから乱れた足音が聞こえてきた。
誰かが罵りながら近づいてきて、彼女の斜め後ろの椅子にドスンと腰を下ろした。
「くそっ!三上周威、この鬼畜野郎!教育委員会に告発してやる!生徒虐待!サイコパス野郎!」
夜の湖畔は非常に静かで、男子生徒の罵声が由衣の耳にはっきりと届いた。
この声と愚痴の内容からすると、話しているのは以前教室の前で水の入ったバケツを仕掛けて彼女をからかおうとした加瀬東、藤原雪が学校で慕っている義理の兄のようだった。
どうやら三上周威にひどい目に遭わされたらしい!
三上周威は彼女の期待を裏切らなかった。土日まで彼を追い詰めるなんて。
由衣が座っていた場所は大きな木の影になっていたため、加瀬東は彼女の存在に全く気付いていなかった。しかし由衣は月明かりと街灯の光で、加瀬東の顔色が土気色で、大きな隈を作り、手にビール缶を持ち、傍らには散らかった數學のテスト用紙が投げ捨てられているのをはっきりと見ることができた。用紙には黒い足跡が何箇所もついていた。
「雨宮由衣のブス女め!俺をこんな目に遭わせやがって!覚えてろよ!お前を潰せなかったら、加瀬を名乗る資格なしだ!」加瀬東は手に持っていた鉄製のビール缶を力まかせに潰し、眉間に険しい色を浮かべた。
自分の名前を聞いて、由衣の口角が思わずピクリと動いた。
彼女に何の関係があるというのだろう?
彼らが彼女をからかおうとしたからって、大人しく引っかかる必要があるのだろうか?
この加瀬東は学校の小さな暴君で、横暴で道理が通じないことで有名だった。父親が学校理事だったため、彼にいじめられた生徒たちは被害を受けても泣き寝入りするしかなく、教師たちも見て見ぬふりをして手出しできなかった。
今回は三上周威という手ごわい相手に当たってしまっただけで、もし他の教師だったら、おそらく軽く叱るだけで終わっていただろう。
もし加瀬東に目を付けられたら、これからの学校生活は楽ではなさそうだ……
「へっ、ブス女め、よくも俺を陥れやがったな。俺を弄んでるつもりか。ぶっ殺してやる。二度と調子に乗れないようにしてやる……」