雨宮由衣は直接寮に戻り、湖畔での小さな出来事をあまり気にしていなかった。数ヶ月後には大学入試があり、学校にもそう長くはいられない。このような幼稚な出来事に時間を浪費する必要はなかった。
翌朝。
雨宮由衣はいつものように派手な格好で教室に入ってきた。
教室に入るや否や、それまでの騒がしさが一瞬で静まり返った。教室内の生徒たちは一人一人が熱い視線を向け、期待に満ちた表情を浮かべていた。
雨宮由衣は少し困惑した。これほど露骨な態度を見せられては、バカでもなければ何かあることは分かるだろう。
まあ、以前の彼女の知能ならば、気づかなかったかもしれない。
雨宮由衣は何も気づいていないふりをして、まっすぐ自分の席に向かった。
横目で見ると、案の定、椅子が普段と違っていた。表面に透明な接着剤が厚く塗られており、注意深く見なければ気づかないほどだった。このまま座っていたら大変なことになるところだった。
この強力な接着剤に座ってしまえば、体が椅子にくっついてしまい、その場でズボンを脱がない限り離れることはできない。
実質的な被害は少ないかもしれないが、クラスメイト全員の前で恥をかくことになる。
雨宮由衣は隣でいつものように机に伏せて眠っている庄司夏を一瞥し、密かに「美人は災いの元」とため息をついた……
椅子に手を伸ばそうとした時、横から突然人が飛び出してきて、まず彼女を後ろに引き、素早く彼女の椅子を引っ張り出した。
椅子が前に引き出され、入り口から差し込む陽の光で、椅子の表面に厚く塗られた透明な接着剤がはっきりと見えた。
眠っていた庄司夏は耳障りな音で目を覚まし、不機嫌そうに雨宮由衣と加瀬東の方を見やり、その椅子に視線を落とすと、眉をわずかに寄せた。
雨宮由衣は庄司夏の反応に気づかず、ただ眉を上げて突然現れた加瀬東を見つめていた。
どういうつもり?
加瀬東はその漆黒の瞳に見つめられ、それまでの傲慢な表情が一瞬で硬くなり、黙って彼女の椅子を自分の席まで運び、自分の椅子と交換した。
それだけではなく、クラスメイト全員の驚愕の視線の中、加瀬東は手を伸ばして雨宮由衣の机の引き出しから死んだネズミを取り出した。
死んだネズミを見て、臆病な女子生徒たちが気持ち悪がって悲鳴を上げ始めた。