第88章 お世辞がうまい

墓場のように静かで冷たい部屋の中、ただ突然の携帯電話の着信音だけが響き続けていた。

井上和馬は庄司輝弥の意図を読み取れず、この電話に出たいのかどうかも分からず、ただ携帯を持ったまま固まっていた。何より、この電話に対して不吉な予感を感じており、できることなら九様に出てほしくないと思っていた。

着信音が鳴り続けるにつれ、周囲の圧迫感はますます強くなり、その音は爆弾の秒読みのように耳に響いた。

井上和馬の神経は極限まで張り詰め、おそらく慌てすぎたせいで、手が震え、うっかり通話ボタンを押してしまった。

次の瞬間、画面には相変わらず目障りな雨宮由衣の顔が映し出された。

しまった……

携帯の向こう側で、雨宮由衣はかなり待ったが誰も出ず、電話が自動切断されそうになった時、画面が一瞬揺れ、ビデオ通話が繋がった。

画面を見た瞬間、雨宮由衣の瞳孔が一瞬収縮した。

画面の向こうの男性はソファーに横たわり、片腕を額に当て、シャツの襟元のボタンを2つほど無造作に開き、髪も少し乱れていた。特に顔色が、異常なほど蒼白かった。

画面越しでさえ、男性から放たれる恐ろしいほど危険な雰囲気を感じ取れたが、同時に魅惑的でもあった。

映像の角度から見ると、携帯は誰か別の人、おそらく井上和馬が持っているようだった。

携帯の画面が微かに揺れており、井上和馬の手が震えているのだろうと推測した。

その微細な震えから、雨宮由衣は瞬時に危機を察知した。きっと庄司輝弥は既に情報を得ているのだろう、彼女の行動が遅すぎたのだ。

雨宮由衣は唇を噛み、目を伏せながら、「ごめんなさい……お休みの邪魔をしてしまったかしら……」

傍らの井上和馬は、既に電話に出てしまった以上、冷や汗を流しながら取り繕うしかなかった。「雨宮さん、九様はまだお休みではありませんが、こんな遅くに何かご用件でも？急ぎの用事でなければ……」

雨宮由衣は井上和馬の言葉を遮るように、強く頷いた。「あります、急用です！」

井上和馬：「えっと……」

雨宮由衣は即座に言った。「今日、学校で男子学生から告白されて、好きだって言われて……」

井上和馬は喉が詰まりそうになり、魂が抜けそうになった。やはりこの電話に出るべきではなかった！！！

彼は気付かれないように携帯を揺らし、雨宮由衣に話を止めるよう促そうとした。