時間は一分一秒と過ぎ去り、あっという間に二十分が経過した。
しかし、時間になっても、庄司輝弥は現れなかった。
二十分ちょうどになった時、井上和馬から電話がかかってきた。
「もしもし、雨宮さん、大変申し訳ありません。九様がこちらで少し用事に手間取っておりまして、もう少々お待ちいただく必要がございます!」
「あ……何か急用でも?」雨宮由衣は慌てて尋ねた。
井上和馬の声色も何故か少しおかしく、しばらく言葉を濁してから、「い、いいえ、大したことではありません。もう少しだけお待ちください!」
「ああ、分かりました」雨宮由衣はようやく安心した。
電話を切った後、雨宮由衣は向かいの加瀬東に向かって言った。「彼が急用で少し遅れるみたいです」
加瀬東は腕を組んで、まるでそう言うことを予想していたかのような表情で、ゆっくりと口を開いた。「構わないよ、待てるから」
庄司輝弥はいつも忙しいので、用事で遅れるのは当然のこと。雨宮由衣も深く考えずに待ち続けた。
あっという間にさらに三十分が過ぎた。
庄司輝弥はまだ来ない。
代わりに井上和馬からまた電話がかかってきて、困ったような声で再び告げた。「雨宮さん、九様の用事がまだ片付いていないので、もう少しお待ちいただく必要が…」
「ああ、大丈夫です。仕事を優先してもらって」雨宮由衣は気にせず答えた。
向かいの加瀬東はその様子を見て、雨宮由衣を見つめながら、「どうした?また延期か?」
雨宮由衣は頷いた。「申し訳ありません。彼、本当に忙しくて」
加瀬東も追及せずに、「気にするな。俺も暇だし、ゆっくり待てる」
そうしてさらに長い一時間が過ぎ、レストランの客も段々と少なくなってきた。
一時間後、井上和馬から三度目の電話がかかってきた。
今回の井上和馬の声は一層おかしく、震えているように聞こえ、まるで泣きそうな様子だった。向こうで何か厄介なことが起きているのだろうか。
「大変申し訳ございません。九様がまだ…」
「ああ…」雨宮由衣もここまで来ると、何か様子がおかしいと感じ始めた。何か大事が起きたのだろうか?それとも庄司輝弥は本当は来たくないのだろうか?
でもおかしい。来たくないなら最初から断ればいいのに、承諾した上で井上和馬に何度も連絡させる必要はないはずだ。