雨宮由衣は複雑な心境の中で、その手袋を受け取った。
嬉しくない……
手を繋いで雰囲気を和らげれば、彼の怒りも収まるかと思ったのに!
でも、今の状況で、彼は本当に怒っているのかどうか……
感情鈍いのはまだいいけど、無表情だし、こんな彼氏を持つなんて本当に大変。全く心が読めない……
雨宮由衣が残念そうにため息をついている間、周りの人々は入り口にいる絶世の美男美女のカップルに驚きのあまり言葉を失っていた。
「私...私、何を見てるの...雨宮由衣が...本当に彼氏がいるなんて...」
「しかもめちゃくちゃイケメンじゃない!」
「庄司夏よりもスペックが上だって言うのは全然大げさじゃないわ!この顔だけでも十分でしょ!」
周りの噂話を聞きながら、藤原雪はその場で固まったように動けなくなり、顔色は異常なほど蒼白になっていた。まるで何か恐ろしいものを見たかのように。
庄...庄司輝弥......
あの伝説の人殺しも平気でやるという庄司家当主!
庄司夏のことで一度だけ遠くから見かけたことがあるけど、絶対に間違えるはずがない。
この男性は、一度見たら誰も忘れられない存在だ。
でも、どうして!
雨宮由衣の彼氏がどうして庄司輝弥なの?!
もしそうなら、雨宮由衣がどうして庄司輝弥を放っておいて庄司夏に近づこうとするの?
まさか...庄司夏が最初から雨宮由衣にこんなに特別な扱いをしていたのは、この理由?
雨宮由衣が庄司輝弥の女だから!
ああ、もし庄司輝弥に私が雨宮由衣にしたことを知られたら...
そう考えた瞬間、藤原雪の顔に大きな恐怖の色が浮かんだ。
同時に、彼女の頭の中に庄司夏の警告が蘇った。「死にたくなければ黙っていろ」...
皆が驚きで固まっている中、入り口で、男性の後ろから突然声が聞こえた。
「庄...庄司様...」
ピンクのワンピースを着た沢田夢子が、恥じらいながらそこに立って、庄司輝弥に挨拶をしていた。
周りの人々はその様子を見て、すぐに興味津々な視線を向けた。沢田夢子もこの人を知っているの?
近づいてきた沢田夢子に気付いた庄司輝弥は、彼女に一瞬だけ目を向けたが、その眼差しには何の感情もなく、まるでそこに誰もいないかのようだった。