階下で、井上和馬が歩いてきて、雨宮由衣の荷物を運ぼうとしたところ、由衣と女の子の会話が聞こえてきて、思わず立ち止まった。
由衣は塾に通っているのか?彼は知らなかった。
由衣のことは全て彼が担当しているはずなのに。
もしかして主人が由衣のために申し込んだのか?
江川麗子はそれを聞いて少し安心した。「あなたが凄いと言う数学の先生なら、本当に素晴らしい先生に違いないわ!」
「うんうん、安心して。あなたも頑張ってね!じゃあ行くわ!私のこと忘れないでね!」由衣は彼女を抱きしめた。
江川麗子は頬を赤らめ、呆れたように由衣を見つめた。「早く行きなさいよ。月曜日にはまた会えるでしょ?」
由衣がメイクをしなくなってから、その顔は本当に目を引くようになった。女である彼女でさえ耐えられないほどだから、男性なら尚更だろう。
昨日、由衣の彼氏が学校に来てくれたおかげで、みんなの期待は冷めたようだった。
江川麗子は井上和馬を見つめながら、思わず声を潜めて感嘆した。「まさか、あなたの彼氏が庄司夏さんの叔父さんだったなんて。みんな、彼はすごい人物だって噂してるわ。庄司家の謎めいた当主、庄司輝弥さんじゃないかって人もいるくらい。だってあの威厳ある雰囲気は、ただの人じゃないみたいで……」
「げほっ、げほっ……」由衣は聞いて思わず咳き込み、即座に否定した。「まさか!そんなの考えすぎよ!庄司輝弥が私の彼氏だなんて!それならアメリカ大統領が私の父親ってことになるわ!」
傍らの井上和馬は「……」
江川麗子は笑みを浮かべた。「私もそうは思わないわ。だって伝説の人物だもの、そう簡単には会えないでしょう。みんな、ただの憶測よ。それに庄司輝弥は怖くて恐ろしい顔をしているって噂なのに、あんなにイケメンで優しい人なわけないもの!」
それに庄司家の子供たちは皆、世界トップクラスの専門学校や国際訓練キャンプに通っていて、幼い頃から専門的な育成と教育を受けているのに、国内の私立名門校に通うはずがない。
庄司家と関係があるとしても、おそらく遠い傍系の親戚くらいでしょう!
とはいえ、それでも庄司家と少しでも縁があれば、一般人には仰ぎ見るような存在なのだ。
優しい……?
由衣は干笑いを浮かべた。「そうそう!私の彼氏はとても優しいの、本当に優しくて……」