朝食を済ませ、必要な物を全て用意した後、雨宮由衣は出かける準備をした。
出発する直前、彼女は何かを思い出したように足を止め、「ちょっと待って!すごく大事なことを忘れてた!」と言った。
そう言うと、一目散に中庭へ駆け込み、木陰に横たわる白い塊へ向かって、そっと足音を忍ばせながら近づいていった。
最近、白は錦園によく来ているが、庄司輝弥は彼女が白とばかり遊ぶことを許さなかった。「物に溺れると志を失う」と、勉強に影響が出るというのが理由だった。
でも、もうすぐ苦しい時期も終わる。夏休みになれば、白と一緒に遊べるのだ。
白は誰かが近づいてくるのを感じたのか、耳をピクリと動かしたが、相手にする気はないらしく、依然としてだらしなく横たわったまま、尻尾をゆらゆらと揺らしていた。
三歩、二歩、一歩……
「白ちゃん白ちゃん、あなたの威厳を少し分けてください。試験会場で大暴れできますように……」
雨宮由衣は深く息を吸い込み、白虎が気付かないうちに素早くその体を撫で、すぐに逃げ出した。
少し離れたところにいた庄司輝弥は「……」
彼女の言う非常に重要なことというのは、スルートを盗み撫でることだったのか?
井上和馬は、まるで痴漢のような怪しい動きをする雨宮由衣を見て、口角が引きつった。
彼は雨宮由衣がスルートをかなり気に入っているようだと気付いた。
スルートという名前は「殺戮」を意味し、この白虎は名前の通り、もともと殺戮を好む好戦的な品種で、幼い頃から血なまぐさい訓練を受けてきたため、性格はより一層凶暴になっていた。
雨宮由衣が彼を怖がるのは当然のことだと思っていたが、今や彼女は「威厳を分けてもらって大暴れしたい」などと言えるようになっていた。
本当に好きでなければ、そんな言葉は絶対に出てこないはずだ。
……
庄司輝弥は自ら彼女を試験会場まで送った。
到着すると、学校の外には受験生を送ってきた保護者たちが黒山の人だかりを作っていた。
親たちは子供たちに心配そうに注意を与えたり励ましたりしながら、校門をくぐっていく姿を見送っていた。
「行ってきます!」雨宮由衣はシートベルトを外し、車から降りようとした。
「待て」そのとき、隣の庄司輝弥が突然彼女を呼び止めた。
雨宮由衣は動きを止め、庄司輝弥の方を見た。うーん、励ましの言葉でも言ってくれるのかな?