第262章 それは彼だ……

傍にいる里村桜は髪が少し油っぽく、古びた灰色のスカートを着て、おどおどとした様子で、ずっと俯いて涙を拭っていた。「まさか橋本羽がそんな人だとは思いもしませんでした。私は自分の手で娘をそんな人渣の手に渡してしまったなんて……」

二人とも最も質素な底辺層の人々で、貧しく苦しい生活を送り、このような打撃を受けた。カメラの前に現れた途端、多くの視聴者が彼らの境遇に同情のコメントを連投し、さらに多くは橋本羽への罵倒の言葉だった。

アパートの中で、桧山春樹は夫婦が厚かましくも可哀想な振りをしているのを見て、怒りで爆発しそうになった。まして橋本羽本人がこの場面を見た時の気持ちは想像もつかない。

「羽、大丈夫か……」桧山春樹は心配そうに尋ねた。

橋本羽は黙ってスクリーンの二人を見つめ、何かに気付いたように目つきが少し変わった。「あいつか……」