第306章 私を誘惑までしたのか

雨宮由衣は橋本羽が手に持っているバッグを見て、異常を悟られないように表情を和らげ、ドアを開けて彼を入れた。「ありがとう。休みなのにこんなに早く起きたの？」

「えっと...」橋本羽は鼻をこすりながら、どう答えていいか分からなかった。

壁にもたれかかって一晩中眠れなかったとは言えないだろう...

この二人、大丈夫だったのだろうか...

橋本羽がそう考えていると、部屋に入った途端、ダイニングテーブルの横で男が冷たい表情で乱れた襟元を直しているのが目に入った。すぐに雨宮由衣の方を見て、近寄って小声で探るように聞いた。「おい、白、昨夜...昨夜、友達に何かしなかっただろうな？」

雨宮由衣は困惑した表情で「友達？庄司九のこと？私が彼にどうしたって？」

橋本羽は彼女が完全に記憶がないような様子を見て、呆れた。「全然覚えてないの？昨夜、お前が酔っ払って彼を口説いてたじゃないか。美人だの、お兄さんだの呼んで、占いまでして、手を取って長々と触って、永遠の孤独な運命だとか、一人で老いる運命だとか言って、お前との縁が足りないから、お前と寝ないと解けないとか言って、強盗みたいに部屋に引っ張り込んだじゃないか。止めようとしても止められなくて、一晩中心配してたんだぞ...」

雨宮由衣：「...」

what？！

橋本羽の言葉は...まるで800キロのハンマーが...雨宮由衣の頭を強く打ちつけたかのように...目の前が金色に光って...天地がひっくり返るような...

「今、何て...言った？」雨宮由衣は呆然と彼を見つめた。

橋本羽は軽く咳払いをして「本当に覚えてないんだな...」

雨宮由衣と橋本羽の会話は小さな声だったが、庄司輝弥は明らかに聞いていた。襟元を完璧に直し終えると、氷のように冷たい目で彼女を見つめていた。

雨宮由衣は苦しそうにつばを飲み込み、庄司輝弥の目を全く見られず、橋本羽をじっと見つめながら言った。「そんなはずない！私がそんなことするわけない！私の心には彼女しかいないの！嘘言わないで！」

橋本羽は諦めたように彼女を見て「嘘なんかつかないよ。昨夜は友達を口説いただけじゃなく、香織姉まで口説いたの忘れたの？」

橋本羽の言葉が終わった瞬間、テーブルの横にいた庄司輝弥の表情は明らかにさらに険しくなった。

ふん、いいぞ...