ライトが設置され、等々力辰もカメラの前に立った。
雨宮由衣は向かいの椅子に座り、静かに待っていた。
すぐに、3分の準備時間が過ぎた。
雨宮由衣:「時間です。」
等々力辰の瞳に一瞬の動揺が走り、慌てて口を開いた。「生まれながらにして罪悪、なんという生まれ...生まれ...」
おそらくまだカメラに慣れていないせいで、等々力辰は一文を言っただけで詰まってしまった。
雨宮由衣は眉をひそめ、「もう一度。」
等々力辰は脇に下ろした拳を握りしめ、深く息を吸って、再び始めた。
「生まれながらにして罪悪、なんという生まれながらにして罪悪...私は皆様と...」
続けようとした時、雨宮由衣は彼の言葉を遮った。「表情が硬すぎる。演じ直せと言ったのであって、台詞を読み上げろとは言っていない。もう一度。」
等々力辰の顔色が少し青ざめ、軽く目を閉じて状態を整え、そしてまた口を開いた。
「生まれ...」
しかし、今回は二文字を言っただけで、また詰まってしまった。
等々力辰の顔から血の気が完全に引いていた。「申し訳ありません!」
雨宮由衣の表情は無感情のままだった。「もう一度。」
しかし、4回目も等々力辰は感覚を掴めなかった。
その後は雨宮由衣が何度もカットを掛ける声が響き、等々力辰は十数回撮り直しても合格できなかった。
20回目、等々力辰の一回一回悪くなっていく演技に対して、雨宮由衣は椅子の肘掛けを叩いていた指を止め、いつもの怠惰な表情は今や一片の温もりも失っていた。
このマネージャーの極度の不機嫌を感じ取ったのか、撮影スタジオの雰囲気は極限まで重くなり、誰も大きな息も出来ないほどだった。
そして全ての視線が集中する中、等々力辰は全身が汗で濡れ、指を強く握りしめていた。
できない...
やはり彼にはできない...
かつてはカメラの前で魚が水を得たように自然だった彼が、今やカメラと他人の視線に向き合うだけで生理的に全身が硬直し冷たくなり、全く制御できず、さらには心の底から深い自己嫌悪感が湧き上がってくる。
雨宮由衣はもちろん等々力辰の状態がおかしいことに気付いていた。
カメラに対する拒絶だけでなく、自分自身に対する拒絶さえも。