……
「このデブ、知覚が高いな」
岩壁の下で、ロジャーは手の土を払いながら、少し息を整えた。
あの肥えた殭屍は「赤潮の屍王妃」に違いない。
幸い、望氣術で事前に違和感を察知し、超高速の反応で崖から飛び降りることができた。
そうでなければ、あの魔物に発見されていたかもしれない!
隱密職の「燕のごとき軽身」の特技のおかげだ。
他の者なら十数メートルの崖から落ちたら、手が泥まみれになるだけでは済まなかっただろう。
……
「燕のごとき軽身(第1環特技):跳躍、飛び越え能力が極めて高い。高所から落下時に'滑空'と'緩降'効果が付与される」
……
並外れた知覚以外に、ロジャーが気になったのは「赤潮の屍王妃」が出入りしていたテントだ。
「三つの可能性がある」
「一つ目は、谷に人がいて、この赤潮ゾンビの群れが人為的に作られたということだ」
「この可能性は低くない。ミストラの邪教徒はどこにでもいるからな」
「二つ目は、赤潮の屍王妃が高度な知性を進化させ、羞恥心とプライバシーの概念を持つようになり、彼女だけがテントに住む資格があって、他の赤潮ゾンビはまだ混沌と彷徨っているということだ」
「三つ目はより残酷な可能性だ。赤潮の屍王妃は生きている人間から変化した可能性があり、生前の記憶を保持しているかもしれない!」
どの可能性であっても、任務の難度は目に見えて上がる。
領主府の情報によると、赤潮ゾンビの一般的なレベルはLV3からLV5の間だ。
そして赤潮の屍王妃はLV5のエリート魔物である。
一人でこの魔物の群れを倒すのは、明らかに困難だ。
しかし、ロジャーには少しも退く気はなかった。
彼はその場で態勢を整え、思考に沈んだ。
先ほどの観察から、ロジャーは以下の情報を得た:
この峡谷には出口が一つしかなく、出口は五、六人が並んで通れる程度の広さだ。
峡谷内の赤潮ゾンビの数は約30体ほど。
あのテント付近は屍王妃が長く滞在している場所のようで、テント自体も重要な意味を持っているかもしれない。
……
「少し本気を出さないとな」
ロジャーは少し考え込んでから、バッグを開けた。
砂柔草で満たされた内ポケットには、人差し指ほどの長さのガラス瓶が十数本入っていた。
ガラス瓶には色とりどりの粘性のある液体が入っており、日光に照らされて輝いていて、とても美しかった。
彼は黄色い瓶を一本取り出し、手のひらで慎重に確認した。
……
「元素瓶(雷):高濃度雷素聚合體」
「魔力豊度:9」
「投擲/起爆:有効爆発範囲内、雷ダメージ80*4;周辺ダメージは段階的に減少」
「製作者:ロジャー」
……
ロジャーは元素瓶の外殻を優しく撫でながら、少し惜しそうにした。
このような小さなガラス瓶一本が、約8000匹の魔爆蛙に相当するのだ!
そう、元素瓶の中の高濃度雷元素は、雷屬性の魔爆蛙の鰓腺から抽出したものだ。
しかし、魔爆蛙個体の鰓腺に蓄えられている雷元素は非常に限られており、魔力豊度も低い。
このような強力な元素瓶を得るには、長年の蓄積と濃縮が必要だ。
時間的コストも労力も、一般人には耐えられないものだ。
ロジャーに元素瓶の作り方を教えた薬剤師でさえ、一生で十数本しか作れなかった。
薬剤師本人の言葉によれば、元素瓶の威力は小さくないが、大量の魔爆蛙を捕まえる必要があり、製作のコストパフォーマンスが極めて低いという。
ロジャーのような専門の蛙狩人だからこそ、これほど多くの瓶を作ることができたのだ。
……
正午を過ぎた頃。
元素瓶が正常に使用できることを確認した後。
ロジャーは手際よく元素瓶を峡谷の出入り口の岩に設置した。
次は敵を集める時間だ。
ロープを使って、彼は再び素早く東側の崖を登った。
今回は赤潮の屍王妃の姿は見えなかった。おそらくテントの中にいるのだろう。
彼は自分を岩壁に縛り付け、それから手を空けて携帯している弓矢を掴んだ。
隱密職のもう一つの特徴は専門化された武器が多いことで、弓矢もその一つだ。
ロジャーは不慣れながらも火打石で矢じりに火を付けた。
深く息を吸い。
弓を引いて矢を放った。
動作は一気呵成だった!
残念ながら、風のせいか、久しぶりの弓矢のせいか、この一射は大きく外れ、赤潮ゾンビたちは何の異常も感じなかった。
ロジャーは恥ずかしがることなく、弓弦を調整し直した。
彼はもともと上手な射手ではないし、プロの弓使いでもない。この距離で外すのは極めて普通のことだ。
彼は十本の矢を用意しており、一本でも魔物たちの注意を引けばいい。
しばらくして、彼は息を止めて集中し、再び弓を引いて放った!
今度は、火花を散らす矢じりが峡谷の上を美しい放物線を描いて飛び、最後は赤潮の屍王妃のいるテントに突き刺さった!
不気味な叫び声が鋭く響き渡った。
ロジャーは躊躇なく、次々と火矢を放った。
間もなく、峡谷には濃い黒煙が立ち込めた。
赤潮ゾンビたちはついにロジャーを発見した。
短い断続的な叫び声とともに、彼らは緩慢な足取りで峡谷の出口へと向かってきた。
ロジャーは望氣術を発動し、まず赤潮の屍王妃の位置を特定した。
予想外にも、屍王妃も怒りを覚えたようで、他のゾンビたちと一緒にふらつきながら出口へと押し寄せてきた。
しばらく様子を見てから、彼は崖を降り、峡谷の入り口から30メートルも離れていない大木に身軽に登った。
この木の後ろには、狭い羊腸の小道があった。
万が一の時は、ロジャーはこの小道を通って逃げるつもりだった。
小道は雲臺山の山麓にある洞窟群へと続いており、そこはロジャーが最も詳しい場所だった。
「堅實」特技を持つプレイヤーとして、逃げ道を用意しておくのは基本中の基本だった。
「堅實」という特技は実際には別の意味を持っているのだが。
……
「堅實(レベル1特技):あなたの両手は極めて安定しており、生活スキルを行う際にほとんどミスを起こさない。戦闘時には、武器の命中率が+3される」
……
峡谷の入り口で、黒煙が揺らめいていた。
「来たな」
ロジャーは心の中で自分に言い聞かせた。
望氣術の真価が、この瞬間に存分に発揮された。
黒煙で視界は遮られていたが、太さの異なる血色の気の柱によって、魔物たちのおおよその位置を把握することができた。
赤潮の屍王妃の気の柱が最も太かった。
ロジャーは全神経を集中して彼女を見つめていた。
もうすぐ位置につく。
彼は静かにパチンコを取り出した。
「隱密俠」が扱える投擲武器の中で、パチンコはロジャーが最も得意とするものだった。
百メートル以内なら外すことはなく、弓矢よりもずっと正確だった。
「もう少し前に」
この時、赤潮ゾンビの大群はすでに元素瓶の位置に近づいていた。
ロジャーは完璧なタイミングを待っていた。できれば赤潮の屍王妃を一撃で仕留めたかった。他の赤潮ゾンビはどうでもよかった。
しかしその時。
濃密な血色の気の柱が突然前進を止めた。
それどころか、彼女は一歩後退した。
しかしすぐに、また一歩前に出た。
元素瓶の爆発範囲の外で、赤潮の屍王妃は躊躇している様子を見せた!
これにロジャーは一瞬迷いを感じた。
このまま引き延ばせば、赤潮ゾンビの大群が元素瓶の位置を通り過ぎてしまう!
「なんと狡猾な魔物だ」
「異常なほどの知覚力だ」
ロジャーは突然悟った。
これは赤潮の屍王妃の惑わしの術だ!
彼女は確実に元素瓶の脅威を察知し、ロジャーの位置も感知していた!
そう考えた瞬間、ロジャーは躊躇を捨て、パチンコを引き絞った。
プシュッ!
小さな河原石がゾンビの群れの中で元素瓶を砕き、澄んだ音を立てた。
黄色い液体が勢いよく流れ出し、凝固阻害剤の揮発とともに、高濃度の雷元素が周囲の魔力を引き寄せ、繰り返し聚合反応を起こし始めた!
ゴロゴロッ!
驚雷が地を走る。
稲妻が蛇のように走る。
峡谷の入り口に一瞬まばゆい光が満ちた後、その光は薄れ、代わりに暴れ回る雷蛇が現れた。
木の上のロジャーでさえ、軽い麻痺を感じた——彼は元素瓶のダメージは免疫できたが、雷による麻痺効果は解除できなかった。
ロジャーですらそうなのだから、爆発範囲内にいた赤潮ゾンビたちはなおさらだった。
大半のゾンビは狂暴な雷元素の猛威の下、その場で命を落とした。
ごくわずかな赤潮ゾンビがわずかにもがいた後、仲間たちと共に黃泉へと旅立った。
ロジャーの画面は次々と表示される撃破通知で埋め尽くされた。
「一気に28体か、まあまあだな」
彼は木から飛び降りた。
残りの普通の魔物を無視し、ロジャーは直接気の柱が最も濃い方向へと向かった。
突然、彼は立ち止まった。
肥大な怪物が煙の中から飛び出してきた。
彼女は全身から赤い膿を流し、五官は既に判別できないほど崩れていたが、頭蓋骨ははっきりと見えた。
彼女の速度は極めて速く、以前に見せた鈍重さとは著しい対比を成していた。
まばたきする間もなく、彼女はロジャーの目の前まで迫っていた。
その時。
わずかな肉片しか残っていない骨の爪が空気を切り裂き、鋭い音を立てながら、真っ直ぐにロジャーの顔面めがけて振り下ろされた!
……