049 擬似魔法

火のオレンジの外見はオレンジとほとんど変わらない。

しかし内側から異様な匂いを放っている。

望氣術の視界で、ロジャーは火のオレンジの木々から立ち昇る濃密な血気を見ることができた。

その濃さは赤潮の屍王妃に匹敵するほどだった。

彼は表情を引き締めながら果樹園の奥へと進んでいった。

そこで、大量の人為的な収穫の痕跡を発見した。

「シンディは嘘をついていなかったようだな」

「ハンフランはずっとこの火のオレンジを栽培していたんだ」

「竜牙村を攻撃するために、こんな非道なことまでするとは、冷酷無情な男だ」

ロジャーには分かっていた。

これらの火のオレンジは沼地の流民たちのために用意されたものだと。

沼地の流民は本来、災害後に生き残った人類の末裔だった。

長年の魔力汚染により。

彼らの脳と体幹は深刻な異形化を起こしていた。

そのため、大半の沼地の流民は「擬似魔法」能力を身につけていた。(注1)

これらの擬似魔法能力は本物の魔法と比べれば、子供だましのようなものだった。

せいぜい「初級呪文」と呼べる程度のものだ。

沼地の流民の中で最も強い者でさえ、二三発の「小火玉」を放った後は、それ以上の魔法詠唱能力を失ってしまう。

だから沼地の流民の魔法能力は取るに足らないものとされてきた。

しかし前回の竜牙村との衝突で、シンディは沼地の流民たちの擬似魔法能力が大幅に強化されていることを発見した!

ハンフランは特別に三つの「擬似魔導師団」を編成していた。

彼らはハンフランの命令に直接従い、エレメントの近い擬似魔法を使用して、大きな破壊力を発揮した。

シンディの事後の推算によると。

一つの「擬似魔導師団」の破壊力は、第一環の頂点にいる通常の魔法使い一人分に匹敵するという。

これは異常なことだった!

沼地の流民の擬似魔法能力は数十年続いているが、たとえ強化や進歩の余地があったとしても、こんなに突然現れるはずがない。

問題はこの「火のオレンジ」にあった。

この数ヶ月間のシンディの密かな調査で。

彼女は驚くべき事実を発見した——

火のオレンジを服用すると沼地の流民の擬似魔法能力が大幅に強化される。

少し訓練を積むだけで、普通の流民を「擬似魔導師団」の一員にすることができる。

そして短期間に大量の火のオレンジを服用すれば、この強化をさらに極限まで押し上げることができる。

しかし、すべてには代償がある。

火のオレンジを服用すると、沼地の流民のもともと短い寿命がさらに大幅に縮まる。

沼地の流民は通常30歳まで生きられる。

しかし火のオレンジを服用した後、多くの流民が首の肉瘤が破裂して死亡している。

その死に様は非常に悲惨だと言われている。

……

実は、竜牙村は普通に移住するつもりだった。

しかしハンフランに東への道を塞がれてしまった。

彼は「擬似魔導師団」を持っているだけでなく、灰色ドワーフから取引で手に入れた弩車も持っていた。

後者こそがシタラヤ・ミューズが最も警戒しているものだった。

彼女の血脈がどんなに強大でも、今はまだ幼龍に過ぎない。

少しでも油断すれば、殺されかねないのだ。

そしてハンフラン本人も翡翠の幼龍が警戒するほどの力を持っていた。

そのため、竜牙村の移住の旅はなかなか始められなかった。

本来ならこの状況はずっと続いていたかもしれない。

ハンフランが十分な力を蓄えて全面攻撃を仕掛けるまで。

しかしロジャーの出現が、すべてを変えた。

……

夜陰に紛れて果樹園を後にした。

ロジャーは暗影斗篷を纏い、沼地の流民の村に潜入した。

葦の茂みと比べると、ここの建物の状態は少しましだった。

中に住む人々も大半の時間は正気を保っているように見えた。

しかし桐麻町と比べると。

ここはまるでゴブリンが建てた村のようだった。

「ん?」

「火の光が...前に人が列を作っているのか?」

ロジャーは慎重に近づいていった。

前方は広場のような開けた土地で、

左右に二列の列が整然と並んでいた。

全員が静かにしていた。

これは沼地の流民の集落では珍しいことだった。

ロジャーはしばらく観察し、左の列のほとんどが男性で、右の列は全員が女性だと気付いた。

男性は15歳以上が多かった。

女性は逆に15歳以下だった。

最年少は10歳そこそこに見えた。

男性の列の終点には、籠いっぱいの火のオレンジが置かれていた。

火のオレンジを配っているのは、顔中傷だらけの大男だった。

彼の首の肉瘤は異常なほど膨れ上がっていた。

彼の動きは素早く、話し方も速かった:

「次」

「早く、次」

列に並んだ人々が順番に前に出て、受け取ったらすぐに立ち去った。

ロジャーは気付いた。

沼地の流民一人につき火のオレンジを二つ受け取れた。

火のオレンジを受け取った者は皆、皮も剥かずに急いで食べてしまった。

「次は...」

傷面のやつが話している最中、突然横からバンという音が!

火のオレンジを受け取ったばかりの男の頭が、何の前触れもなく爆発した!

大量の血が飛び散った。

その一部が傷面のやつの唇と顔にかかった。

彼は唇を舐めて、ぺっと吐き出し、色の判別できない服で顔を拭った。

「次」

彼は言った。

列はゆっくりと前に進んだ。

騒ぎも声も上がらない。

ただ沼地の流民たちの無感情な顔があるだけだった。

ロジャーはその首のない死体を黙って見つめていた。

長い間、言葉が出なかった。

……

男性の列を離れ。

ロジャーはもう一方の列に近づいた。

男性たちの無感情さと飢えた様子に比べ、こちらの状況は少し異なるようだった。

同じように静かではあったが。

ロジャーには明らかに、これらの少女たちの顔に憧れと喜びが満ちているのが分かった。

この列は大きな家へと続いていた。

家の入り口には衛兵が立っていた。

これらの衛兵も同じように痩せこけて黄色い顔をしていた。

ロジャーは静かに忍び寄った。

途中、少女たちの囁き声が聞こえてきた:

「ハンフラン様の新しい花嫁になれば、一度に籠一杯の火のオレンジがもらえるんですって」

「そうすれば空腹に耐える必要もないわね」

「私もしっかりしてハンフラン様のために子供をたくさん産みたいわ...」

ロジャーの足が止まった。

これらの少女の言葉に衝撃を受けたわけではない。

「真知の寶石」を見つけたからだ!

これは隱形術系の能力に非常に効果的な対抗手段だった。

暗影斗篷が真知の寶石の効果を欺けるかどうか確信が持てなかった。

少し迷った後、迂回して大きな家の裏側に回ることにした。

雲梯術を使って高い垣根を登り、慎重に中庭を覗き込んだ。

ちょうどそのとき、一人の少女がよろめきながら家から出てきた。

彼女は小さな籠に火のオレンジを入れて持っていた。

「あっ」

少女は突然痛みで叫び、地面に倒れた。

ロジャーは目を見開いた。

少女の平らだった腹部が、肉眼で見えるほどの速さで膨らみ始めた!

わずか10分ほどで、臨月の妊婦のような大きさになった。

彼女は苦痛に地面を転げ回った。

家から誰かが走り出てきて、冷たい声で叱責した:

「産み終わってから行けと言ったのに、聞かないからだ」

「今度は私たちに手間をかけさせて」

少女は痛みで額に汗を浮かべていたが、ようやく助けが来た。

しばらくすると。

中庭から赤子の産声が聞こえた。

ロジャーはその赤ん坊が生まれてから5、6歳の大きさまで成長する過程を目の当たりにした。

たった1時間ほどの出来事だった。

これは異形の力では説明できないことだ!

この少女は今日初めてこの大きな家に入ったのだ。

しかし出てきたときには、5、6歳の男の子を連れていた。

彼女の顔も10歳以上も老けていた!

ロジャーは息を殺し、再び望氣術でその大きな家を細かく観察した。

ますます濃くなる血気以外は。

何も得られなかった。

彼がさらに大胆に家の中に入ろうとしたその時。

長い間静かだったステータス欄がついに動きを見せた。

……

「あなたの特技-望氣術の環数が上昇しました」

「望氣術の優先度が大幅に上昇しました」

「新しい情報を入手しました」

「穢血の神の儀式を察知しました」

……

(注1:擬似魔法とは、魔法に似た特異能力のこと。魔法が後天的に学習して得られるのに対し、擬似魔法は先天的に自然に形成される)