040 武術家

ここは灰色ドワーフの頭領が奇遇に遭遇した場所のはずだ。

先ほど地下河で泳いでいた時。

ロジャーは浅い河底で多くの割れた陶器を見つけた。

水に侵食されて原形を留めていない古い品物もあった。

河原にも、同じような物が散らばっていた。

彼は灰色ドワーフの頭領の「白鴉の冠」と「避火の珠」がここで拾われたのだろうと推測した。

河原に沿って地下河の上流へ約二キロ歩くと、道の行き止まりに着いた。

そこには、巨大な岩壁が前方への道を遮っていた。

数束の「蛍光菌」が淡い光を放っていた。

耳元には地下河の軽やかな流れる音が。

そよ風が吹いていた。

ロジャーは久しぶりに心地よさを感じていた。

彼はゆっくりと岩壁に近づき、その上の不思議な隆起に手を優しく触れた。

突然、耳元で幻のような微かな笑い声が聞こえた。

そして。

かつてない清涼感が電気のように指先から走り、瞬時に彼の心まで届いた。

その感触は一瞬で消えた。

その素晴らしい感覚にロジャーは思わず余韻に浸りたくなった。

しかし不思議なことに、たった今起きたことなのに、どうしても思い出せなかった。

彼はデータ欄を一瞥した。

……

「あなたは'気'の存在を感じ取った」

……

「気か？」

ロジャーはそれほど驚かなかった。

侠隠の型にも"気"の概念があったが、それは4環以降でないと使えない力のようだった。

彼が気になっていたのは。

もしミストラに本当に輝かしい武術文明が存在していたのなら、それらと侠隠という職業には何か関係があるのだろうか？

この点について、二つの一般的な推測があった。

「侠隠」は確かに、あるプレイヤーが適当に作ったMODに過ぎない。

ミストラの武術文明と侠隠の型の間に共通点があったとしても、それは単なる偶然に過ぎない。

第二の推測はより陰謀論的だった。

自分の転生に関連して。

ロジャーは一分以内で天地を驚かすような大きな物語を思い描くことができた。

そしてこの物語の中で、彼は誰かの大物の駒に過ぎなかった。

侠隠という職業の真の秘密は、失われた武術文明と関係があるかもしれない。

しかし、よく考えてみると。

ロジャーは第一の推測の方が有力だと考えていた。

理由は単純だ。

もし本当に誰か大物が自分の転生を仕組んだのなら。

新米村で十年も過ごさせるはずがないだろう。

結局、桐麻町を離れるよう密かに促すのはそれほど難しくないはずだ。

侠隠の型を使って何個かクエストを出せば良いだけだ。

この観点から考えると、陰謀論の可能性は確かに低い。

ただし、大物の層がロジャーの想像以上に深いのでない限り。

そうなると無限の入れ子構造に陥ってしまう。

ロジャーはこういった方面に脳細胞を浪費することはなかった。

……

彼は岩壁に長時間触れ続けたが、"気"の存在を再び感じることはなかった。

彼は白鴉の冠と曲風マスターの避火の珠を取り出した。

何かのきっかけを見つけようとした。

しかし依然として無駄だった。

長い間苦心した末、ロジャーは少し落胆した。

「まさか本当にドワーフにも及ばないのか？」

この考えが浮かんだ瞬間、岩壁に突然変化が起きた。

ロジャーは目を見開き、連続して数歩後退した——

これは岩壁の風雲の全貌をはっきりと見るためだった。

淡い光が岩壁の後ろから射してきて、そこに突然多くの人影が現れた！

人影だけでなく。

岩壁には山があり、水があり、雲があり、木があり、人家があった。

突然、雲煙が立ち上った。

岩壁の景色は海辺の場所に変わったようだった。

新しい太陽が東方からゆっくりと昇ってきた。

うねる波が岩礁に激しく打ち付けていた。

浜辺には。

何百何千もの人影がいた。

彼らは風に向かって武術の稽古をしていた。

一つ一つの技が力強く美しかった。

耳元で彼らの掛け声が微かに聞こえた。

突如として。

数十メートルの波頭が襲いかかり、砂浜に向かって突進してきた。

その千万の人影が一人の絶代の宗師となった。

彼は岩礁の上に立ち、両掌を軽く前に押し出した。

瞬時に。

波頭は海へと巻き返された！

……

気付かないうちに、ロジャーは見入っていた。

彼はまるで神の視点から、太古の武術家たちの拳法における絶代の風華を目の当たりにしているかのようだった！

我に返った時には。

岩壁は元の状態に戻っており、全ての幻影は消え去っていた。

ロジャーは気付いた。

岩壁付近の数束の「蛍光菌」も暗くなり、地面にへたり込んでいた。

データ欄に、新しいヒントが表示された。

……

「あなたは留仙壁で清泉宗の武術奥義を悟った」

「あなたは新職業：武術家を獲得した」

「武術家の選択肢：1.兼職 2.上級 3.拡張モジュール 4.放棄」

……

「なるほど、武術泥棒と呼ばれる訳だ。あのドワーフはきっとこの岩壁で武術を悟ったんだな」

ロジャーは長考に入った。

彼は主に最初の三つの選択肢の利害得失を考えていた。

武術家という職業を得た後の直接的な利点は、手持ちの武術の秘伝書が学べるようになることだ。

これをきっかけに、ミストラのより多くの太古の文明に触れることができるかもしれない。

欠点は一つだけ。

彼は欲張り過ぎて消化不良になることを心配していた。

結局のところ、彼は非常に実践的な人間だった。

「まず選択肢2を除外しよう」

直接上級に進むのは絶対に無理だ、武術家がどれほど強いのか彼にも見当がつかなかった。

しかし侠隠のIMBAレベルについては、ある程度予想できていた。

侠隠モジュールは後期に進階職業が付いてくるので、前期に貴重な上級の機会を無駄にするわけにはいかない。

「兼職」は、良い選択肢のように思えた。

これは侠隠を主とし、武術家を従とする修練の形態を形成することを意味する。

ロジャーの忍耐力があれば、兼職によるペナルティは無視できる。

しかし侠隠と武術家にはある程度の重複があることを考えると、後期に問題となる可能性がある。

彼が現在接している情報は少なすぎる。

今の段階で最終的な職業の組み合わせを決めるのは適切ではない。

何度も考えた末。

彼は結局、三番目の選択肢を選んだ。

「拡張スロット」を一つ消費して、武術家の職業能力を侠隠の「拡張モジュール」に組み込む。

これも侠隠モジュールの強さの一つだった。

こうすることで、「武術家」という職業を「侠隠」の一部にすることができる。

代価は非常に貴重な拡張スロットを一つ消費することだ！

なにしろ。

侠隠の型の初期拡張スロットはたった一つしかない。

理論的にはこれは増やすことができる。

しかし拡張スロットを増やす具体的な方法は、ロジャーはまだ見つけ出せていなかった。

……

「あなたは'武術家'の拡張モジュールを獲得した」

「あなたは'武術の秘伝書'から武術を悟ることができるようになった！」

「あなたは新しい基本能力：悟性を獲得した」

「あなたの初期悟性は13ポイントです」

「悟性（13）：あなたは武術に対して極めて高い悟性を持っており、武術の秘伝書の習得速度は並外れている；習得できる武術スキルの上限も増加する」

……

「いい感じだ」

13ポイントの悟性を見て、ロジャーはこの拡張スロットを無駄にしなかったことを確信した。

これは彼が持つ最高の基本能力だった！

「もしかして俺が伝説の武道の天才？」

彼が空想に耽っているとき。

岩壁の一角が突然崩れ落ち、小さな穴が露わになった。

とても礼儀正しい声が遠くから飄々と聞こえてきた：

「やっと会えましたね」

「少々恥ずかしいのですが……あの……こちらまで這ってきていただけませんか？」

……