箱を渡し終えると。
アランは理由をつけて立ち去った。
応接室にはロジャーだけが残された。
彼は黙々とその武術の秘伝書を読み進め、さらなる情報が浮かび上がってきた。
……
「縮陽入腹:平沙派秘技、創始者黒虎」
「特性:気を一線に保ち、伸縮自在、戦闘時の隙を効果的に減らす」
「上級:'不漏體'の前提となる秘技の一つ」
「要求:悟性14/最低2つの気穴の習得」
……
「不漏體?なるほど……」
ロジャーは悟った。
一見すると前世の女装の達人たちが修練していた邪道のように思えた。(注1)
しかし、よく考えてみると。
黒虎師匠がそんな人のはずがない?
「毎日スライディングや膝当て、股間狙いの蹴りを相手に使うなら、そういった技の対策を考えるのは当然だ」
「男が外を歩く時、時には縮陽入腹のような技で身を守る必要もある」
「それに'不漏體'というかっこいい上級技もある」
ロジャーは気づいた。
他の武術の秘伝書と違い、縮陽入腹は平沙派の"秘技"であって"絶学"ではない。
その特異性が窺える。
……
「縮陽入腹」の他に。
箱の中にはさらに二冊の本があった。
一冊は武術の秘伝書で、もう一冊は日記のようなものだった。
武術の秘伝書は「旱地拔蔥」と名付けられていた。
……
「旱地拔蔥:平沙派絶学、創始者黒虎」
「特性:気を両足に通し、一跳びで飛翔、極めて特殊な爆発力の法門」
「要求:悟性13/最低1つの気穴の習得」
……
文字通り、ロジャーをより高く跳ばせる技のようだ。
まあまあ良さそうだが。
縮陽入腹と比べると少し物足りない。
ロジャーが現在習得できる武術の上限は7つ。
昇級の場合を除けば、残りの枠は少ない。
しかし彼は急いで決めようとはせず。
まずはその日記をじっくりと読むことにした。
日記は「黑虎心經」と名付けられていた。
中に記されていたのは武術の秘伝ではなく。
黒虎師匠が生涯の戦いで得た経験談だった!
ロジャーは読めば読むほど喜びを感じた。
正直なところ。
黒虎師匠の字は極めて汚く、歪んでいて、最初は読むのに苦労した。
しかし内容が充実していて、実用的な情報が満載だった。
すぐに彼は読み込んでいった。
「黑虎心經」の中で。
ロジャーは多くの実戦例を学んだ。
その中には、黒虎師匠でさえ戦闘前に必勝を確信できなかった相手もいた。
彼は文字でそれらの戦いの過程を詳細に記録しただけでなく。
文字では説明しづらい状況に遭遇した時は。
分かりやすい簡単なスケッチも添えていた。
黒虎師匠の字は下手だったが、絵は生き生きとしていた。
ロジャーは夢中になって読んだ。
前世の子供の頃に連環画を読んでいた感覚に似ていた。
ざっと一通り読んで。
彼は黒虎師匠が繰り返し言及していた「不意打ちと急所攻撃」について新たな理解を得た。
これまで。
ロジャーがやってきたのは実は急所攻撃ばかりだった!
しかし実際には黒虎の理念では、「不意打ち」こそが最優先されるべきだった。
千言万語を一言に集約すれば——
天下の武術は、"先制攻撃"に如かず!
実戦では、先制権が最も重要なのだ!
両者の実力が拮抗している場合。
先制は半分勝ったも同然。
もし先制の上に「急所攻撃」を加えることができれば。
基本的に必勝の道となる。
……
「あなたは'黑虎心經'を読み、平沙派武術の宗旨についてさらなる理解を得た」
「黒虎師匠の真伝を受け継いだことを確認」
……
「平沙派武道の習得速度が50%上昇」
「習得済みの平沙派武術の上達速度が50%上昇」
……
「曲風マスターに申し訳ない気持ちが増してきたな」
ロジャーは心の中で軽くため息をつきながら。
目には満足感が溢れていた。
黑虎心經を置き、箱の中の残りの品を確認しようとした時——廊下から明瞭な足音がゆっくりと聞こえてきた。
ロジャーは微笑んだ。
アランのやり方は、確かに申し分ない。
「どうやらこれらの物があなたの役に立ったようですね」
しばらくして。
アランが再び席に着き、興味深そうにロジャーを見つめた。
「とても大きな助けになりました」
ロジャーは真剣に言った:
「どんな武術家にとっても、これは無価の宝だと思います」
「実は、なぜご自身で保管されないのか気になっていました」
アランは穏やかに微笑み、分厚い右手を自分の胸に軽く当てた:
「私の力はここから来ています」
「他の職業の寶物は私にとって価値がありません」
ロジャーは目を細めた。
アランが見せた精神性と行動様式を考え合わせ。
彼の心にすぐに答えが浮かんだ:
「聖騎士?」
アランは静かに頷いた。
ロジャーは思わず敬意を抱いた。
聖騎士の力は自らが立てた誓いに由来する:
善良、秩序、復讐力、禁欲……
誓いを守り通す聖騎士だけが、極めて強大な力を得ることができる。
世間の理解とは異なり。
聖騎士は必ずしも特定の神々を信仰する必要はない。
彼らが信仰するのは自らの誓いだ。
一生誓いを守り通すことは非常に困難なため、聖騎士はかなり稀少な職業となっている。
前世でロジャーがゲームで出会った聖騎士はたった1人だけだった。
聖騎士領主に至っては。
聞いたことすらなかった。
結局のところ領主という立場は、誓いを破りやすすぎるのだ!
……
「私は一般的な聖騎士とは少し異なりますが……まあ、それは重要ではありません」
アランはそう言いながら、分厚い書類の束をさらに渡してきた。
「これは以前約束したセラ川の資料です」
「約束の内容は変わりましたが、これはいずれあなたに見せるつもりでした」
ロジャーも遠慮せず、受け取った。
以前アランと交わした半年の約束は、こういうものだった:
きっかけはアランがセラ川の謎を解く手がかりを見つけたこと。
彼は元々今年の夏の終わりにボンドレイ川へ行く予定だった。
そして彼が外出している間。
アランはロジャーにパラマウント荘園を守ってほしいと願った。
報酬は黒虎師匠の伝承だった。
しかし今は状況が変わった。
埋骨の地からの圧力が日に日に増していた。
当初の計画は止むを得ず保留となった。
双方の約束の内容も先ほど話し合った内容に変更された。
……
ロジャーは書類を受け取り。
アランと原始林での見聞について語り合った。
主にネクロマンサーの集落の動向と、「魔物支配の術」の状況について。
日が暮れるまで。
彼はフレイヤの咳払いの声を聞いてようやくゆっくりと領主府を後にした。
家に戻ると。
ロジャーは森羅農場が一変していることに気付いた——
もともと人気のなかった場所に。
今では広々とした小屋が立ち並んでいた。
かすかに人々の笑い声が聞こえてきた。
李維の説明によると。
この半年の間に。
森羅農場には6世帯が徐々に住み着いた。
現在の常住人口は子供を除いて62人。
これらの人々は全てロジャーの小作人だ。
彼らはロジャーに税金を納めるだけでなく、農作物の大部分も上納する。
主屋の隣の倉庫は今やトウモロコシとカボチャでいっぱいだった。
これらは全て小作人たちが懸命に働いて生産したものだ。
そしてロジャー様の邪魔にならないよう。
フレイヤは特別に主屋と倉庫の周りに大きな輪を描くようにムクゲの木を植えさせた。
今はちょうどムクゲの満開の時期。
夜であっても。
ロジャーはその紫や赤の花々の群れを見ることができた。
彼の気分は一気に明るくなった。
倉庫が一杯で、住む場所のない筋肉質の部下たちに「自分で穴を掘れ」という指示を出した後。
彼は三段跳びで屋根裏部屋に上がった。
アランからもらった木箱を開けた。
明るい燭光の下で。
残りの二つの品物もその姿を現した。
……
「克己(グローブ)」
「ランク:なし」
「特殊効果:このグローブを装備すると、武術を使用できなくなる」
「備考:武術は人を殺す術だが、武術家は殺人マシーンではない。克己を知ってこそ、大成する(黒虎)」
……
「あぁ、これは」
「黒虎師匠の境地は私の想像以上に高かったんだな!」
ロジャーは感嘆しながら、静かに「克己」をるつぼの隅に投げ入れた。
そして最後の品物に目を向けた。
それは古風な形をした玉だった。
望氣術で詳しく見る前に、データ欄が先に反応を示した。
……
「珍品を検出:新月の玉佩」
「気命共鳴を行いますか?」
……
(注1.知乎には達人たちの詳細な図解攻略があります、どうやって知ったかは聞かないでください--)