地下墓所。
最後の不融氷が虚空に消えた。
石棺の中で、アーロンは迷いを帯びた瞳を開き、そして口を開いた。「今こそ……約束の時が来たのか?」
彼は自身の虚弱さを感じながらも、顔に喜びの色が浮かんだ。
これは普通の人間の感覚であり、全てが予想通りに、体内の靈性が尽き果て、凡人に戻ったことを示していた。
不融氷の消散とともに、洞窟内の最後の光も闇に飲み込まれた。
しかし間もなく、提灯が灯され、黄色い光が周囲を照らした。
アーロンは地面に横たわる二人の死体を見つめ、しばし考え込んだ。「盜墓者か?棺を破壊しようとしたようだが、最後の不融氷に触れてしまったようだな。悲劇だ。彼らに聞きたいことがあったのに……」
「まあ、目覚めた途端に何処かに監禁されたり、非凡者に囲まれたり、あるいはそういった存在に見つめられたりしなかったのは、成功と言えるだろうな?」
アーロンはグーグーと鳴る腹を撫でた。空腹だった……
彼の視線は、思わずその二つの死体に向けられた。
しばらくして、青い作業着を着たアーロンは自分の墓から這い出した。手には包みを持ち、その中には着替えた衣服と装飾品が入っていた。
先ほど死体を調べたのは、もちろん食べるためではない。彼は'赤'の道を選ぶつもりは全くなかった。
ただ相手の服装から、時代が大きく変化したことを知ることができた。
以前の衣服を着て外出すれば、まるで白昼堂々と殭屍が踊っているようなもの——目立ちすぎる。
「二つの世界は順調に融合したはずだ……ならばこの世界には必ず非凡者が存在するはず。そして私は弱く無力な普通の人間に過ぎない……」
「ふむ……たとえ以前の力を持っていたとしても、一人で一国を殺し尽くすような偉業は、もはや不可能だろうな。だから目立たないようにしなければ……そう考えると、少し残念だな……」
「目覚めて最も重要なことは、まず周囲の環境を観察することだ……」
アーロンは頭を上げ、清らかに輝く月を見上げ、顔に感慨の色を浮かべた。「昔ながらの月が……良かった。紅色でなくて良かったよ……」
周囲は暗闇に包まれ、荒野のようだったが、遠くには光が見えた。
「当時の判断が甘かったようだな。選んだ場所が十分に人里離れていなかった……」
彼は首を振り、地面の大きな穴を見て、一人では掘れないような規模だと感じた。
そして、夜明けが近かった。
「まあいい、適当に埋めておこう。どれだけ隠せるか分からないが……次にすべきことは、夢の中に入り、夢の世界がどうなっているか確認することだ……今は周囲の状況が良くないから、後回しにしよう……」
「一体どれほどの時が流れたのだろう……だが人生の半ばを放浪しても、私は少年のままで戻ってきた……」
アーロンは提灯を手に、光の方向へと歩み出した。
……
明け方。
橙色の朝日が昇り始め、母なる川の水面に映り、きらきらと輝いていた。
綠森市の東西を結ぶ鉄の大橋の中央で、アーロンは感慨深げに母なる川の両岸の景色を眺めていた。
無数の鉄筋コンクリートの建物が地上に聳え立ち、まるで鑄造された鉄の森のようだった。
近くには工場地帯の煙突が高くそびえ、大量の煙を吐き出していた。
「緑の森の森林は完全に伐採され、ヴィクトリア様式の都市に変わってしまったのか?」
アーロンは口を大きく開けた。「母なる川の流れまでも大きく変化し、ほとんど見分けがつかないほどだ……地質層も変動があったに違いない。地震でも何度かあったのだろう?さもなければ、私は墓を地下深くに作ったはずなのに、地表に現れるはずがない……」
遠くには、木材を敷き詰めた線路も見え、蒸気機関車が引く列車が轟音を立てて通り過ぎていった。
「ジニーに渡した本には蒸気機の構想は記していたが、列車という概念は書いていなかったはずだが……」
早朝にもかかわらず、すでに多くの人々が行き交っていた。その大半は急ぎ足の労働者で、サスペンダーとチェック柄のシャツを着て、ベレー帽を被った新聞配達の少年もいた。
時折、グレーのワイドパンツにベージュの襟付きシャツ、その上にベストを着て、書類カバンを持った、まるで中産階級のエリートのような会社員が通り過ぎていった。
アーロンは装飾の施された馬車が道の中央を我が物顔で走り抜けるのを目にし、開いた窓からは紳士の姿が見えた。
その人物は滑らかな絹のベストとズボン、黒い毛織りの礼服を着て、頭には丸い礼帽を被り、胸には金の懐中時計の鎖と白い絹のネッカチーフを付けていた……
「この進化は……少し速すぎるな……」
アーロンは呟きながら、風に舞ってきた新聞を拾い上げた。
粗悪なインクは手に付いたが、文字の半分ほどは読み取れた。緑の森の共通文字の痕跡が残っていた。
幸いなことに、日付欄は常に目立つように書かれており、数字の書き方もそれほど変化していなかった。
「新暦1026年、7月4日!」
アーロンは推測を交えながら最初の一文を読み上げ、感慨深げな眼差しを向けた。
彼は新暦が歴史のどの年から数え始められたのかまったく知らなかったが、様子を見るに、かなりの時が経過したようだった。
ソトス城、家族、ジニー……
彼は深く息を吸い、子孫を残さなかったことを幸いに思った。さもなければ、親族全てが死に絶え、歴史の中に消え去ってしまったという感覚は、おそらく今の彼の心情をより重くしていただろう。
それでもなお、一種の物思いがアーロンの心に長く留まり、消え去ることはなかった。
「塵世の全ては、既に歴史となった……」
「私もより一層……神祕と超常を追求すべきだな。」
アーロンは自分に言い聞かせ、昇りゆく朝日を見つめ、両手を広げ、まるで太陽を抱きしめようとするかのようだった。
'生命は一筋の輝光なり……'
'輝光は流転し、水が高きより低きに流れるが如く、故に輝光は遠方より伝わりくる……'
'無形のものを受け止めんとするには、有形の容れ物を要す……'
'有形の容れ物は血肉そのものなり、我が心中空無なれば、故に光輝を受け止めうる……'
'かくして……無形の太陽が我が心より昇る!'
アーロンは心の中で呪文を唱えた。
それは'曜'の秘伝から来ており、しかも琳が献上した不完全なものではなく、アーロンが太陽の破片の本體から直接得たものだった。
その存在の本體こそが、神祕であり、知識だったのだ!
かくも長き時を不融氷に封じられていたことで、アーロンは自然と高度な伝承を会得し、それは直接心に刻まれていた。
'赤'、'闇'、'影'、'蛹'などの他の秘伝も習得していたが、アーロンは熟考の末、'曜'の道を選んだ。
なぜなら、それは紅き創造主本人から直接もたらされたものであり、また千年の氷封を経て、アーロンは以前は普通の人間だったとしても、神秘学的に密かに変容を遂げ、'曜'の道により適した存在になっているかもしれないと感じていたからだ。
今、彼が行っているのは、'曜'の秘伝の最初の段階である'輝光法'だった。明け方の光を浴びながら、瞑想と呪文によって靈性の覚醒と蓄積を促進するものだった。
アーロンは自分の思考が限りなく上昇し、一筋の光に触れるのを感じた。それは心の中に満ちていった。
それは——'曜'の靈性!
彼は突然目を見開き、興奮で体を震わせた。
たとえこの靈性がとても微弱であっても、以前の献上によるものとは異なり、これは彼が自ら生み出した最初の靈性だった!
そして……散逸することはなかった!!!
「世界……」
アーロンは小声で呟いた。