以前、林逸がここを通った時、道端に民宿があったのを覚えていた。しかし、あまり良さそうな場所ではなかったので、立ち寄るつもりはなかった。
だが今は緊急事態で、他の宿を探している余裕はない。一軒でもあれば十分だった。
「部屋を一つ!」
林逸は少女を背負ったまま民宿に駆け込み、カウンターに座っている女将に声をかけた。
女将はつまらなそうにテレビを見ていたが、突然若い男が黒衣の女性を背負って駆け込んできて、すぐさま部屋を求めたので、思わず意味ありげな笑みを浮かべた。
この民宿はかなり格安で、若いカップルたちが密会できる場所として運営されていた。客のほとんどは場所の格式など気にせず、静かで清潔であれば十分だった。
この宿で部屋を取る若いカップルは数多く見てきたが、林逸のように急いで女性を背負ったまま入ってくる客は珍しかった。
「一時間十五元の短時間利用か、一日六十元の宿泊か、どちらにしますか」
女将は林逸に尋ねた。
「じゃあ、まず百元預けておきます」
林逸はポケットから百元を取り出して女将に渡した。
「ちょっと待って、身分証明書を登録させてください!」
女将は金に目がくらむことなく、警戒を緩めなかった。
林逸は眉をひそめた。背負っている少女が持ちこたえられるかどうか分からなかった。
しかし仕方がない、宿泊登録は当然のことだった。林逸は自分の身分証明書を取り出して、女将に渡して登録してもらった。
「彼女の分は必要ないですよね?」
林逸は尋ねた。
その「彼女」が背負っている少女を指していることは、女将にも分かるはずだった。
「一人分で大丈夫です。一部屋につき一人の登録で結構です」
女将は規則に従って身分証明書を登録しただけで、林逸を困らせるつもりはなかった。
林逸の身分証明書をスキャンした後、女将はルームキーを取り出した。「二階の209号室です。自分で行ってください」
「ありがとうございます」
林逸はルームキーを受け取り、少女を背負ったまま急いで階段を上がった。
その間、少女は林逸の肩に伏せたまま動かなかった。胸の柔らかさを通して心臓の鼓動を感じられなければ、すでに死んでいるのではないかと疑うほどだった。
「ふう!」