第2章 箸1本あれば十分！
鳳凰大飯店は蘭寧市東通りの辺りで評判が高く、格式が高級で、サービスが行き届いており、味も良く、食事時には常に満席となっていた。
「お父さん、この店には何度か来たことがあるんだ。味がとても良くて、お父さんが蘭寧市に来た日に連れて来たかったんだけど、用事があって延期になってしまったんだ」
「私は年を取って味覚が衰えてしまった。どんなに美味しい物でも違いが分からなくなってしまった。萧塵をもてなしてやってくれ」
来る途中の雑談で、萧塵は自分の名前を彼らに告げていた。
同様に、萧塵も老人が霍林という名前だと知った。
「分かりました！」
霍青松は萧塵に良い印象を持っておらず、詐欺師に違いないと思っていた。しかし、まだ若いのを見て、深く追及するのは止めた。どうせ一食おごるだけのことだ。
霍青松はフロントで尋ねた。「店長さん、個室はまだありますか？」
「はい、ちょうど最後の一室が空いています。張さん、お客様を13号室にご案内して」
美人の従業員が来て、三人を二階の個室に案内した。
注文の際、霍青松はメニューを霍林に渡し、霍林は更に萧塵に渡した。
「萧塵、食べたいものを自由に注文してくれ。遠慮はいらないよ」
「はい！」
萧塵は本当に遠慮なく、メニューを手に取るとすぐに豪華な料理を何品も注文した。
この行動は、明らかに霍青松の不興を買った。
高価な料理を数品注文したところで大した問題ではない。鳳凰大飯店の高級料理を全部注文したとしても、彼は気にしない。
彼が腹を立てたのは、萧塵の態度だった。
これは一体何なのか？
客は主に従うものだと言うのに、萧塵は全く他人行儀な態度を見せず、知らない人が見たら萧塵が彼らと何か関係があるかのように思うだろう。
「霍さん、何か不機嫌そうですね？」萧塵は霍青松を見て、面白そうな表情を浮かべた。
霍青松は鼻を鳴らして言った。「私が何を言える立場でしょうか。ここではあなたが偉いお客様なのですから！」
霍林は即座に叱責した。「青松、何という物言いだ？」
「お父さん、彼は……」霍青松は言いかけて止め、すぐに目を光らせて萧塵を見つめて尋ねた。
「萧塵、食事は私が奢るから、今度は教えてくれないか。あの陸橋の下で何をしていたんだ？」
「本当に知りたいですか？」萧塵は眉を上げた。
「何か言えない事情でもあるのか？」
「そういうわけではありません。ただ、話しても信じてもらえないかもしれません」萧塵は茶碗を手に取り、お茶を一口すすった。
霍青松は陰陽怪気な口調で言った。「人から聞いた話では、夜中にそこで拳法の練習をして、三日間座禅を組んでいたそうだな。拳法を練習したり、座禅を組んだり、まさか修仙でもしていたとは言わないだろうな？」
「ああ、ご存知だったんですか？」萧塵はくすりと笑って、「実は、少し違いはありますが、大きな違いではありませんよ！」
「何だって、本当に修仙をしていたのか？」霍青松は一瞬驚いた後、嘲笑いながら、軽蔑的な態度で言った。
萧塵は淡々と言った。「そんなに面白いですか？」
「これは今年聞いた中で最も面白い冗談だな！」霍青松は笑いを抑えきれずに言った。「萧塵、私たちが何者か知っているか？」
「知りません！」萧塵は首を振った。
霍青松は再び笑って言った。「当然知らないだろう。私たちは蘭寧市の人間ではなく、省都から来たんだ」
「へぇ？」萧塵は平然とした表情で霍青松を見た。「つまり、省都から来た人間は、他人より上だと言いたいんですか？」
「人より上だとは言えないが、見識は確実にお前より豊富だ」霍青松は声を低くし、厳かな口調で言った。「私は本物の仙人を見たことがある。お前のような小細工なんて子供だましだ！」
「青松、言い過ぎだ。彼はまだ子供なんだぞ」霍林は重々しく言った。
「そうですね、私も彼と言い争うなんて」霍青松は頭を叩いて、自分が怒りに任せて理性を失っていたことに気付いた。
萧塵は十七、八歳の学生で、修仙と言ったのは冗談に違いない。自分は何を真剣に取り合っているんだ？
萧塵は話を続けなかったが、心の中で考えを巡らせていた。
本物の仙人？
すぐに、彼は霍青松の言う仙人が実は武者のことだと気付いた。
古武の道は、古より今日まで伝わり、外勁と内勁の区別がある。外勁は、虎を引き裂き、木を割り石を砕く。内勁は、巧みな力であり、四両で千斤を動かし、千斤の力は後に存す！
萧塵はかつて地球で三年間過ごしたことがあり、地球のことを全く知らないわけではなかった。
しかし、古武道を仙道と比べるのは、大笑いものだった。
古武道の等級は：外勁、内勁、先天、丹術の道に分かれる。
同じ等級の修仙者は力の面では武者とほぼ同じかもしれないが、その他の面では、武者よりもはるかに優れている。
修仙者の術法は火炎操作、風操作、雷引き、氷結が可能で、霊力で法器を鍛造し、符咒を作ることができる。
築基期に至れば、神識力を鍛え、一念で千里先の敵を追跡でき、地球の最先端レーダーをはるかに凌駕する。
金丹期に至っては、人体を丹炉とし、精気を薬とし、神を火として、煉成融合して金丹となし、五穀の輪廻から脱し、真に辟穀を達成する。
その境地では、飲まず食わず、眠らず、寿命は五百歳まで延び、世俗の人々の目には、すでに長生の仙人と見なされる。
しかし、真に仙道を追求する者の目には、金丹もまた入門段階に過ぎない。
萧塵は霍青松の見識が浅はかなことを知っていたので、自分の身分を下げて彼と議論するつもりはなく、ただお茶を手に取り、二口飲んだ。
認めざるを得ないが、このお茶は悪くない。
霍青松は密かに萧塵の様子を観察し、心の中で嘲笑った。「このやつ、芝居がばれたのに、まだこんなにくつろいでいられるとは、厚顔無恥もいいところだ！」
個室内の雰囲気は少し気まずくなり、一時沈黙が流れ、誰も話さなかった。
数分後、突然外から口論が聞こえ、三人の注意を引いた。
「狼兄、中は本当に満席なんです。他の店に行かれてはいかがでしょうか？」
「何だと？俺の兄貴がここで食事をするのはお前らに面子を立ててやってるんだぞ。他の店に行けだと？商売やめたいのか？」
「いえ、そうではなく……」
「黙れ！どけ！」
バン！
個室のドアが乱暴に開け放たれ、がっしりとした体格の男が四人の手下を連れて入ってきて、萧塵たち三人を一瞥した。
「ここは空いているじゃないか？」
店主が慌てて追いかけてきて、言った。「狼兄、彼らはもう注文済みなんです。」
「まだ料理も来てないし、テーブルもきれいなままじゃないか。ちょうどいいだろう。奴らに他の場所で食べさせろ。」
「それは……」
店主は困った表情を浮かべた。
「いいから、俺が言ってやる！」
狼兄は店主を押しのけ、声を張り上げて萧塵たち三人に向かって叫んだ。「この個室は今から俺のものだ。お前らは出て行け。」
「何の権利があって？」霍青松は立ち上がり、怒りの目を向けた。
狼兄は冷笑して言った。「東通りのこの辺りは俺の兄貴の縄張りだからさ！」
霍青松は軽蔑的に言った。「東通りなんて大したことない。言っておくが、私は霍家の霍青松だ！」
「霍青松だと？何者だ？東通りじゃ俺の兄貴が一番偉いんだ。さっさと出て行け、俺を怒らせるな！」
狼兄は全く相手にせず、本当に霍青松のことを知らないようだった。
「お前……」霍青松は怒りで顔が青ざめた。
「どうした、喧嘩がしたいのか？」
狼兄が一歩前に出て、顔の筋肉を震わせ、凶悪な形相で、その威圧感に霍青松は後ずさりした。
この時、萧塵は笑みを浮かべて言った。「霍さん、あなたも言ったでしょう。あなたは省都から来たので、ここでは誰もあなたを知らない。彼らと戦えば不利ですよ。」
霍青松も馬鹿ではない。状況が分かっていた。彼は文人で、狼兄一人とも戦えないのに、その後ろには四人の手下がいるのだ。
古人が言うように、学者が兵に会えば、理があっても通じない。まさにこのような状況を言うのだろう。
「ふん、人を呼んでくる！」
霍青松は携帯を取り出し、電話をかけようとした。
萧塵はまた言った。「遠くの水では近くの火は消せませんよ。人が来る前に、私たちは追い出されてしまうでしょう。」
「じゃあ、お前はどうするつもりだ？」霍青松は萧塵が自分を嘲笑していると思い、怒って言った。「お前がやってみるか？」
萧塵は椅子に座ったまま伸びをして言った。「いいでしょう。結局私は食事がしたいので、気分を台無しにはできません。」
霍林は萧塵が感情的になることを恐れ、急いで言った。「萧塵、無茶はするな。」
「心配いりません。私にはわかっています。実は事態はそれほど複雑ではありません。彼らに退くように説得するには、もっと直接的な方法があります。」
萧塵はそう言いながら、テーブルの箸を取り、包装を破り、一本取り出して、軽く言った。「この箸一本あれば十分です！」
霍林はそれを聞いて、表情が凍りついた。
箸一本で五人のチンピラを退かせるなんて、冗談じゃないか？
霍青松は萧塵の自慢話にもう我慢できず、テーブルを叩いて言った。「お前が箸一本で奴らを追い払えるなら、この霍青松、今日からお前を認めてやる！」
狼兄も萧塵の言葉を聞いて、怒りの目で萧塵を睨みつけた。「お前、何を言った？」
霍青松が電話をかけようとした時、狼兄は本当に少し慌てていた。強敵に当たってしまったかもしれないと恐れていたのだ。
しかし萧塵が箸一本で退かせると言ったことで、彼は納得がいかなくなった。萧塵が自分を侮辱していると感じたのだ。
「よし、今日は見てやろう。お前がどうやって箸一本で俺たちを追い払うのか！」
狼兄はその場に立ち、前にも後ろにも動かず、挑発的に萧塵を見つめた。
萧塵はそれを聞いて、眉を軽く上げ、冷ややかに笑って言った。「では……よく目を見開いて、よく見ておけ！」
言葉が終わるや否や、萧塵の手首が軽く動き、手の中の箸が矢のように放たれた。
ヒュッ！
鋭い破空音が響き、殺気を感じる間もなく、箸は狼兄の肩を貫通し、後ろの壁に突き刺さった。
ドン！
全員の視線が固まり、後ろの分厚い壁を恐怖の目で見つめた。
そこには、箸が半分ほど壁に深く刺さり、残りの半分が外に出ていた。その箸には血が付着し、滴り落ちており、見る者の心を震撼させた。