陸思雅は呼びかけたことで、本当に誰かが来るとは思わなかった。
しかし相手を見ると、ただの普通の高校生で、彼に助けを求めても効果がないどころか、かえって彼を危険に巻き込むことになりそうだった。
そのため、陸思雅は萧塵に助けを求めるつもりはなかった。
彼が余計な事に関わりたくないのも分かっていた。
しかし、怒り狂った萬飛が突然萧塵を罵ったため、立ち去ろうとしていた萧塵は足を止めた。
このとき、陸思雅は萧塵を止めようとした。
萬飛は彼女には何もできないが、高校生が萬飛と関わると、良い結果にはならないことは確実だった。
しかし彼女が口を開く前に、生涯忘れられない光景を目にした。
彼女と萬飛から数歩離れていたはずの萧塵が、突然萬飛の目の前に現れた。
手を上げて一発の平手打ち。
パン!
身長178センチの萬飛は、そのまま宙に舞い上がり、空中で900度回転して車の上に叩きつけられた。
陸思雅は驚愕して口を大きく開け、信じられない様子で萧塵を、この「普通の」高校生を見つめた。
萬飛は少なくとも65キロはあるだろうに、彼はただ手を振るだけで、萬飛の体を地面から浮かせてしまった。
これは人間に可能なことなのだろうか?
「夜中に生意気な!」
萧塵は冷たく一言言い放ち、呆然とする陸思雅に一瞥をくれてから立ち去った。
陸思雅は我に返り、車の上で呻いている萬飛を一目見てから、萧塵を追いかけた。
「達人様、待ってください!」
……
「達人様、お名前は何ですか?教えてください!」
「私を助けてくれてありがとう。今度ご飯でも奢らせてください。連絡先を教えてくれませんか?」
「どうしてそんなに強いんですか?一発の平手打ちで人を吹き飛ばせるなんて、きっと武術を習っているんですよね?」
陸思雅は自分でも信じられなかった。人生で初めて男性に対して甘えた声で話しかけていた。
なぜか、突然現れて自分を助けてくれたこの謎めいた少年に非常に興味を持ち、彼のことを知りたくてたまらなかった。
しかし、彼は木のように無反応で、自分がどんなに言葉を尽くし、取り入ろうとしても、相手にしてくれなかった。
これは明らかに彼女を落胆させた。
まさか自分の魅力がそんなに乏しいのだろうか?
陸思雅はこれを認めたくなく、萧塵についていき続け、諦めなかった。