霞がたなびく仙界で、一筋の金色の光が走り抜け、真っ直ぐに南天門の外へと降り立った。
朱天篷は南天門の石段を踏みながら、思わずため息をついた。規定の時間通りに戻ってきたのだから、少なくとも王母様に文句を付けられる理由はないだろう。
しかし、朱天篷が足を上げて南天門に入ろうとした瞬間、怒号が響き渡った。「何者だ!」
振り向くと、南天門の門柱の後ろから、一つの人影がゆっくりと歩み出てきた。
その人物は十八、九歳ほどに見え、長い髪が肩に無造作に散らばり、鎖帷子を身につけ、紅纓槍を手にしていた。眉間には若者特有の活気はなく、むしろ暮れゆく老人のような淡々とした静けさが漂っていた。
その人物を観察し終えると、朱天篷は周囲を見回した。
南天門を守護する四天王の姿がなく、どこへ行ったのか分からなかった。
「交代の時間なのか?」
そんな考えが頭をよぎり、朱天篷は軽く咳払いをして言った。「お前は何者だ?」
それを聞いて、若者は手にした紅纓槍を地面に突き、冷笑しながら言った。「このわしを知らないとは、やはりお前は天庭の者ではないな。」
一瞬の間を置いて、若者は続けた。「下界の修士が、このわしの当番中に南天門に侵入しようとするとは、痛い目に遭いたいようだな!」
言葉と共に、若者は紅纓槍を構えて突進してきた。
瞬く間に朱天篷の目の前に迫り、紅纓槍を振るうと、たちまち数本の槍花が輝き、朱天篷の頭部、胸部、腹部を狙って襲いかかってきた。
その様子を見て、朱天篷は大いに驚いた。
この者の速さは、自分の神識さえも追いつけないほどだった。
それだけでなく、相手は一撃で人を追い詰めようとする。この荒々しい戦い方から、百戦錬磨の存在であることは明らかで、普通の天神様ではないことが分かった。
そう思った瞬間、朱天篷は即座に流雲遁術を繰り出し、若者の奇襲を避けた。
一撃が空を切ると、若者は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに攻撃の手を緩め、朱天篷を一瞥すると、冷ややかに笑って言った。「ほう、真仙級か。なかなかやるじゃないか。だが、このわしに出会ってしまった以上、今日はいい目を見られんぞ。受けてみろ!」
言葉が終わるや否や、若者は紅纓槍を構えて再び襲いかかってきた。その速度は先ほどよりも速く、威力もさらに増していた。
その様子を見て、朱天篷は眉をひそめ、心の中で怒りが湧き上がってきた。
この者は自分に説明の機会すら与えず、しかも最初から殺意を持って攻めてくる。本当に自分を軟派な相手だと思っているらしい。
そう思うと、朱天篷はすぐさま九齒釘耙を取り出し、冷笑しながら言った。「ちょうどいい、最近突破したばかりの修為を試してみるとするか!」
言葉と共に、朱天篷は九齒釘耙を構えて立ち向かった。
カキーン!
紅纓槍と九齒釘耙が激突し、朱天篷は全身に衝撃を感じ、数十丈後退してようやく体勢を立て直すことができた。
恐れ入った様子で若者を見つめながら、朱天篷はしびれた腕を振りながら、心の中で呟いた。「すごい、なんという力だ。」
同様に、若者も数歩後退し、紅纓槍を握る手も少し震えていた。朱天篷を見る目には一瞬の真剣さが浮かんだ。
次の瞬間、若者は口を開いた。「小僧、なかなかやるではないか!」
それを聞いて、朱天篷は唾を吐き、言い返した。「お前こそな。」
この言葉に、若者は即座に激怒し、紅纓槍を振るいながら言った。「この無礼者め、先ほどまではただ戯れていただけだったのだぞ。図に乗るとは、死ね!」
言葉と共に、その姿は元の場所から消え、再び現れた時には既に朱天篷の目の前に迫っており、手にした紅纓槍は朱天篷の眉間まで三尺の距離まで迫っていた。
その様子を見て、朱天篷は大いに驚き、急いで流雲遁術を使って後ろに避けながら、心中で恐れおののいた。
若者の一撃はあまりにも強力で、真仙級に達している自分でさえ、体内の法力が凝固しそうな感覚を覚えた。この感覚について、朱天篷は良く分かっていた。
境界の威圧!
自分より修為の高い存在だけが、このような威圧を与えることができるのだ。
ドーン!
次の瞬間、朱天篷がいた場所が爆発し、地面のぎょくせきが砕け散った。若者はその場に立ち、唾を吐きながら言った。「逃げるのが上手いな。」
その言葉を聞いて、朱天篷の表情は暗くなり、不機嫌そうに言った。「くそっ、お前が太乙真仙でなければ、俺がお前を叩きのめしてやるところだ。」
この言葉に、若者の口元に冷笑が浮かび、言った。「小僧、お前はかなり傲慢だな?お前は真仙初期の修為だろう?わしも今から修為を真仙初期まで封印してやろう。そうすれば、お前の言い訳も通用しなくなるぞ。」
言葉と共に、若者はある物を取り出し、自分の額に貼り付けた。
その物が識海に沈み込むと、若者の身から境界の威圧が消え、修為も朱天篷と同じレベルまで下がった。
その様子を見て、朱天篷は笑みを浮かべた。
同じ境界での戦いなら、誰も恐れることはない。
そう思うと、朱天篷は手にした九齒釘耙を振りながら言った。「小僧、お前が自分から痛い目に遭いに来たんだ。後で俺が意地悪だったとは言うなよ。」
それを聞いて、若者は軽蔑するように冷笑し、紅纓槍を振るいながら言った。「傲慢な修士め、かかってこい!」
その様子を見て、朱天篷はすぐさま心を引き締め、若者に目を向けると、九齒釘耙を構えて突進した。
それに対して、若者も怯むことなく、紅纓槍を構えて立ち向かってきた。
カキーン!
カキーン!
武器が激突する中、朱天篷は戦えば戦うほど不安になっていった。目の前の若者は、さすがは百戦錬磨の天神様だけあって、自分と全く互角の戦いを繰り広げている。
若者も朱天篷を驚きの目で見つめていた。明らかに、同じ境界で、これほど長く戦えるとは予想していなかったようだ。
「チャンス!」
若者が朱天篷の実力に驚いている隙を突いて、朱天篷は相手の隙を見逃さなかった。両目に光を宿し、左手で剣指を結び、虛空指を繰り出した。
剣気が強く波動を放つと、若者はすぐさま我に返り、慌てて横に避けようとした。
しかし、あまりにも近い距離だったため、相手の反応が素早かったにもかかわらず、完全には避けきれなかった。
ズバッ!
剣気が肩に炸裂し、若者の体は十数丈も吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた後、さらに数丈も滑っていった。
一撃が命中したものの、朱天篷は眉をひそめ、心の中で呟いた。「どうして!」
若者が地面から立ち上がると、その肩には全く傷がなく、鎖帷子の表面に黒い印が残っているだけだった。明らかに、朱天篷の攻撃は鎖帷子に防がれたのだ。
「よし、よし、よしよし、ようやく一戦に値する相手に出会えたぞ。わしも本気を出すとするか。」
若者の笑い声が南天門に響き渡る中、その姿が風もないのに宙に浮かび上がった。足元には風火輪が現れ、右手に紅纓槍、左手に乾坤環を持ち、夕陽のように輝く混天綾が体の周りを巡っていた。その姿は威風堂々として、圧倒的な威厳を放っていた。
その光景を目にした朱天篷は、驚きのあまり手にしていた九齒釘耙を落としてしまい、思わず叫んだ。「なんてこった、こいつは哪吒か!」