第080章 いつ逃げられるのか

真寶樓の中庭。

紫衣の元嬰長老は血色の空を見上げ、静かに袖を背中で組んで立っていた。

「裘長老」

「これは一体どんな陣法なのでしょうか?」

近くで控えていた金丹幹事が我慢できずに尋ねた。

「血海九竅心儀大陣だ」

紫衣の元嬰は感慨深げに言った。「かつて血鰐の老祖は残虐非道で、この陣を布いて我が真寶樓本部を滅ぼそうとした。だが陣が発動した途端、本部のある先達が片手で破ってしまった。たかが一匹の野蛮な鰐如きが、『血海真經』を得たからといって五州四海を跋扈できると思うとは、あまりにも思い上がっていた」

「井の中の蛙とはまさにこのことだ」

彼の言葉には軽蔑の色が滲んでいた。

金丹幹事は表情を緩め、笑いながら「では、この陣は...」

紫衣の元嬰は首を振って遮った。「この陣は異なる。四竅しかないが、この陣を布いた者は相当な腕前を持つ陣道の達人だ。すでに『血海真經』の真髄を幾分か会得している。この陣から抜け出すのは容易ではない!」

「しかし心配はいらない」

「この陣は結局五竅を欠いている。封じ込める力しかないから、慎重に対処すればよい」

金丹幹事は急いで言った。「さすが本部から来られた裘長老、見識が卓越していらっしゃいます!」

紫衣の元嬰の口元に笑みが浮かんだ。

……

丹霞宗の山中。

巍峨な峰の頂。

白髪で童顔の元嬰長老もまた、血色の空を見つめていた。

「金陽の老祖も随分と容赦がないな」

「この十萬大山の妖獣が全て精血と化し、我々元嬰を薬引きとすれば、本当に化血真丹を練成できるかもしれんな」

「寿命が尽きかけると、人は人でなくなる」

嘆息とともに。

彼の声が群山に轟然と響き渡った。

「丹霞宗の全弟子に告ぐ!」

「丹霞不滅、丹道永昌!」

「我と共にこの血色の蒼穹を突き破れ!」

声が落ちた瞬間。

宗門内。

丹霞宗の全弟子が直ちに丹霞訣を運転し、体から霊力が光となって放たれ、丹霞元嬰長老の手にある剣形の丹丸に集まっていった。

轟。

剣形の丹丸から芳香が漂い始めた。

続いて血色の空へと真っ直ぐに突き進んだ。

広がり覆い尽くす血色は、この剣形の丹丸の前で揺らめき、崩れかけているように見えた。

しかしその時。

空が瞬く間に血色の手印へと凝集し、掌紋が克明に浮かび上がった。

「丹霞宗の丹霞訣は名不虚伝」

「だが惜しくも一歩及ばなかったな」

「お前この長寿星が先に飛び出してきたからには、老夫も遠慮なく頂くとしよう!」

冷淡な声が轟き。

血色の掌印が無尽の威能を帯びて天から落ちてきた。

剣形の丹丸は数息の間しか持ちこたえられず、砕け散った。

丹霞の光は一瞬にして暗澹となった。

血色の掌印が消えた後。

雲山に建てられた丹霞宗の分宗は、一つの手印の痕跡を残すのみとなっていた。

この瞬間。

血色の蒼穹さえも静寂に包まれたかのようだった。

各大宗門の元嬰長老たちは暫し沈黙した後、次々と表情を曇らせた。

「血鰐の老祖の通靈古寶、血手印!」

「金陽の老いぼれめ!!」

「陰険狡猾!」

「卑劣無恥!」

様々な罵詈雑言が彼らの口から飛び出した。

通靈古寶を錬化し駆使するには、元嬰大修士でも相当の時間を要する。

今となっては。

この血鰐の遺跡が完全な罠だったことは明白だった。

来る前から。

各大宗門は金陽宗が良からぬ意図を持っているのではないかと推測し、練気築基の弟子たちだけを派遣していた。その後遺跡洞府が開かれても、なお慎重に探索を続け、『血海真經』が現れて初めて元嬰長老たちが我慢できなくなった。

まさか、それでも罠に嵌められるとは。

「今は団結するしかない。そうしてこそ金陽の老いぼれに対抗できる」

「私が言うには、まず金陽分宗を滅ぼすべきだ!」

「金陽分宗はすでに宗門大陣を発動させ、血海九竅心儀大陣と相まって、我々には突破する力がない」

「……」

今宵は決して平穏ではなかった。

商區。

清河小路甲三十五号の小院。

沈平は丁店長からの伝信符の返信を受け取った。「元嬰長老の話では、この血色は金陽宗が布いた陣法で、封じ込める力しかないとのこと。消息はすでに外に伝わり、真寶樓の魏國総本部が受け取れば、強者を派遣して金陽宗本山と交渉するそうだ!」

「我々の命に危険はないはずだ」

伝信符を仕舞いながら。

彼の心はやや落ち着きを取り戻した。

真寶樓の元嬰長老が大言を吐くはずがない。そう言うからには、必ず確信があるのだろう。

そして考えてみれば。

消息が外に伝われば。

真寶樓は必ず金陽宗と交渉するはずだ。

かつて金陽宗の太上長老が強勢を誇っていた時でさえ妥協したのだから、今となってはなおさらだ。

「清兒」

「于燕」

「心配するな、大丈夫だ」

沈平は笑みを浮かべながら于燕と洛清の手首を握った。

血気の立ち昇る家屋を一瞥し。

彼はゆっくりと言った。「今夜は小院で休もう」

……

翌朝。

丹霞宗の山門が全て破壊されたという知らせは、すぐに商區中に広まっていった。

修士たちの中には血の鰐の老祖が復活したと言う者もいた。

羅刹魔谷が手を下したと言う者もいた。

丹霞宗が自ら山門を破壊して、事前に撤退したという者もいた。

様々な噂が飛び交っていた。

しかし、ほとんどの獨立修行者が気にかけていたのは金陽宗の住居の件だった。

沈平も早くから真寶樓に情報を探りに来ていた。昨夜、丁店長が大丈夫だと言ったものの、心の底では落ち着かなかった。

商區を離れない限り。

彼は安心できなかった。

「真寶樓の飛空艇は既に十萬大山の外周に待機しています。」

「封鎖陣が解かれれば、すぐに離れることができます。」

丁店長は小声で言った。「丹霞宗の件については、金陽宗の太上長老が直接手を下したそうです。丹霞宗が最近挑発してきたばかりで、その恨みは覚えていたのでしょう。」

話している間に。

外から騒がしい声が聞こえてきた。

「皆様、ご心配なく。」

「我が金陽宗の陣法は皆様に害を及ぼすことはありません。」

「大陣の発動は他宗門の弟子のみを対象としています。」

「魏國は我が金陽宗の管轄地であり、他宗門が居座ることは許されません!」

沈平と丁店長たちが門の外に出ると、外門の執行巡察弟子たちが次々と霊力を使って叫んでいるのが見えた。

この言葉が真実かどうかに関わらず、少なくとも説明があることで獨立修行者たちは多少安心できた。中には金陽宗を信じる者もいた。結局のところ、金陽宗は魏國の大宗門であり、本当に獨立修行者たちを殺したいのなら、説明する必要すらないのだから。

「丁店長。」

「この陣法は威力を増すのに時間が必要なのでしょうか?」

沈平は念話で尋ねた。

丁店長は気づいて眉をひそめた。「分かりません。後で探ってみましょう。もし特殊な陣法なら、金陽宗のこの行動は時間稼ぎに過ぎないかもしれません。」

真寶樓でしばらく過ごした後。

沈平は清河小路に戻り、単調ながらも充実した生活を続けた。毎日符を作り、座禅を組み、双修を行い……仮想パネル上の変化を見ているときだけ、心が落ち着いた。

あっという間に十月になった。

この間。

商區の獨立修行者たちは血色の空の存在に徐々に慣れていった。金陽宗も確かに他の動きは見せず、むしろ執行巡察弟子の数を増やし、商區外の路地にも数日おきに巡察弟子が見回りに来るようになった。このような対応に獨立修行者たちは安心感を覚えた。

深夜。

血色の星空の下。

小院の別棟で。

抑えた息遣いが水音とともに断続的に響いていた。

薄い紗の衣が木桶の縁に無造作に掛けられていた。

雪芝丸の清涼感が消えると。

影が交錯する道法の交流が終わった。

于燕はいつものように目を閉じて余韻に浸った。

沈平は彼女を邪魔せず、法衣に着替えて静寂室に向かった。

座り込んで。

彼は仮想パネルを見た。

からくり師の後ろに変化が現れていた。

銀色加成が付いていた。

さらに毎日十回の熱心な交流により、からくり師の上達速度は確かに沈平の予想を超えていた。わずか一ヶ月余りで直接突破のレベルに達していた。

轟~

仮想フレームが震動した。

彼の識海に突然からくり師の感悟と知識が大量に流れ込んできた。この瞬間、沈平はまるで長年からくりに没頭してきた修士のようになり、様々な傀儡物品が目の前を次々と通り過ぎていった。符道とは異なり、からくり師の蛻變は五日かけて消化吸収し、最終的に血液に刻まれた記憶となった。

再び目を開けると。

彼の瞳は深みを増していた。

立ち上がって。

沈平は部屋の中をしばらく歩き回り、その後小院に立ち止まった。

彼は于燕から聞いていた。

彼女の師が四、五十年の歳月をかけてようやく中級からくり師となり、あの中品の白いからくり人形が誇るべき作品だったと。

しかし、からくり師は上級品の熟練レベルに達してはじめて、戦闘能力を持つことができる。

「二級からくり師。」

「二級符術師。」

「さらに符道神通があれば、築基後期修士に出会わない限り、自衛は十分!」

考えているうちに。

彼は滅ぼされた丹霞分宗のことを思い出した。

心の中に湧き上がった達成感は瞬く間に消え去った。

丹霞分宗には元嬰強者がいる山門だったのに、あっという間に滅ぼされてしまった。

真寶樓は強いとはいえ、金陽宗太上長老も面子を立てざるを得ないが、もし面子を立てなくなったら!

その時は巣が覆されれば卵も無事ではいられない。

「やはり二つの準備が必要だ。」

ため息をつきながら。

沈平は簡単な支度を整えて商區に向かった。

石門を出ると。

メインストリートは賑わっていて、路傍には多くの獨立修行者が露店を出して呼び込みをしていた。空が血色でなければ、彼は紅柳小路にいた頃の繁栄を思い出しそうになった。

今日の春満園はやや閑散としていた。

曾仲人は暇そうにカウンターによりかかって居眠りをしていたが、沈平を見ると、目が急に輝いた。

「おや、誰が来たのかと思えば!」

「沈符師!」

「随分とご無沙汰でしたね!」

顔いっぱいの白粉の香りと大げさな声色に、沈平は一瞬、春満園に初めて足を踏み入れた時のような錯覚を覚えた。

曾仲人は腰を揺らしながら、「どうぞお入りください。」

二人はすぐに個室に入り、それぞれ座った。

沈平は無駄話をせずに、「曾どうゆう、前回お話しした件はまだ有効でしょうか?」

曾仲人は花が揺れるように笑った。「もちろんですとも。私たち春満園は信用第一ですから。沈符師が護霊符を三十枚用意してくだされば、安全に出られます。」

「いつ出られますか?」

沈平は曾仲人を見つめて尋ねた。

「それが難しいところで、今はね、逃げたい修士が大勢いるもので、私たち春満園にその力があっても順番に手配しないと……」

曾仲人の言葉は途中で止まり、目は沈平の手に現れた雷光符に釘付けになった。話の調子を変えて、断固とした口調で言った。「年末に金陽宗が分宗の弟子たちを移動させる時が、最も安全です。」

沈平は立ち上がった。「曾どうゆう、護霊符三十枚の価格は安くありません。それに見合う価値があることを願っています!」

そう言って立ち去った。

……

初回予約が一万を超えました。読者の皆様のご支援に感謝いたします。この後さらに二章ありますが、明日まとめて読みたい方はそうしていただいても構いません。