第12章 孫大富を懲らしめる
「逃げるな、そこで止まれ、捕まえろ！」
葉錯が病院の玄関に着いたとたん、十数人に囲まれた。
この十数人の中には、警棒を持った五、六人の警備員の他に、孫大富のように太っているか、猿のように痩せた医者たちがいた。みんな雲さまに気に入られようとしているようだった。
孫大富はこれだけ追いかけてきて、肥えた顔中が汗だくになり、葉錯を指差して息を切らしながら言った。「育ちの悪い…野郎め…もう少しで…逃げられるところだった…」孫大富は手を振りながら、「こいつを捕まえろ、この野郎は…雲さまの物を盗もうとした。尋問が終わったら、すぐに公安局に送って銃殺だ」
警備員たちは警棒を振り回しながら、葉錯に向かって威嚇するように叫んだ。「動くな、動くな！」
葉錯は冷笑を浮かべた。自分は最初から動いていないというのに。
数人の警備員が葉錯を取り囲み、葉錯が抵抗しないのを見ると、急に全員が勇ましくなり、手を掴む者、腕を抱える者が現れ、葉錯をしっかりと取り押さえた。
実際、葉錯が本気で抵抗しようと思えば、この飾り物のような警備員たちなど、相手にもならなかった。
孫さんは飛びかかってきて、葉錯の胸に一発パンチを食らわせた。「この野郎め、俺様をあやうく殺すところだった。お天道様が俺を守ってくれて、お前を逃がさなかったんだ！」
葉錯は避けようともせず、そのパンチを受け止めた。目に妖しい光を宿らせながら、淡々と笑って言った。「随分と図々しいな！後で後悔しないことを祈るよ」
「ふん、俺様は図々しいさ。後でお前の玉を潰してやる！今日こそお前を去勢してやる！」葉錯が警備員たちに捕まっているのを見て、孫大富は自分が殴られる心配もなくなり、急に強気になった。
「連れて行け！」孫大富が手を振ると、葉錯は大勢の通行人の視線を浴びながら、数人の警備員にしっかりと抱えられて漢方科に向かった。
人々が見ているせいか、孫大富は調子に乗り、道中ずっと罵詈雑言を浴びせ続け、威張り散らした。中でも「泥棒」「田舎者」といった言葉を大声で連呼し、多くの人々が興味深そうに後をついてきた。
雲野鶴は漢方科で孫大富が先ほどの達人を連れ戻してくるのを焦りながら待っていた。先ほど自分の銀針を動かしたのが、薬草を売りに来た者だと知り、心の中で感嘆せずにはいられなかった。本当に達人は民間に隠れているものだと。
この数日間、あの要人の病気のために、心血を注ぎ尽くしていた。その要人は、自分の生涯の親友でもあり、今回かかった病気は非常に奇妙なものだった。
どんなに考えても解決策が見つからず、家伝の極意を尽くしても、無力にも自分の親友が日に日に衰弱していくのを見守るしかなく、症状は悪化の一途を辿っていた。
そう考えると、雲野鶴は思わずため息をついた。彼の雲氏一族は、医術を千年近く受け継いできた華夏國最古の神醫の一派であり、祖伝の伏羲八陣針法によって、数え切れないほどの命を救ってきた。
伏羲八陣針法は、先天八卦の乾、坤、震、巽、坎、離、艮、兌に基づいて創られたものだ。先天八卦で五行の変化を推論し、人体内の気血のバランスを整えるもので、中医理論の最高峰の一つとされている。
しかし数十年前の戦乱で、この陣法の一部が失われ、今では伏羲八陣針法と呼ばれてはいるものの、一脈を欠いており、せいぜい七卦と言えるものだった。
雲野鶴は幼い頃、父親から最後の卦の変化について聞いたことがあったが、当時はまだ幼く、わずかな記憶しか残っていなかった。そのため今、自分の親友の病気に直面し、華夏第一の神醫を名乗る自分が手の施しようもなく、悲しみと恥ずかしさを感じずにはいられなかった。
彼は失われた最後の経脈の陣法を自力で研究しようと決意したが、常に何かが足りないと感じていた。
そして先ほど、あの銀針が動いた位置を見たとき、突然頭に霊光が差し、父親から聞いた話と驚くほど似ていることに気付いた。さらに、これまで直面していた問題も、すべて氷解したかのようだった。
雲野鶴は心の中で興奮を抑えきれず、漢方科の中でつぶやいた。「なんと素晴らしい、秦せんせい、きっとお天道様があなたの命はまだ終わるべきではないと思われたのでしょう！」彼の言う秦せんせいとは、彼の親友であり、治療を必要としている要人のことだった。
雲野鶴は喜びに満ちた様子で、山羊髭を撫でながら言った。「これも華夏の民にとって幸いなことだ。このような福の星、世外の達人に出会えるとは。もし伏羲八陣針法が復活できれば、これからもっと多くの瀕死の人々を救うことができる。これは天の恵みというべきことで、私の生涯の心残りも解消されることだろう」
そのとき、突然孫大富が大勢の人々と共に騒々しく押し入ってきた。
雲野鶴は孫大富が誰かを連行してきているのを見て、眉をひそめた。「孫部長、先ほど薬材を売りに来た達人をお招きするように言ったはずですが、これは一体…」
孫大富はすぐに前に出て、得意げに言った。「雲さま、私に任せた事が間違えるわけがありません。先ほど物を盗もうとしたのは、こいつです。くそっ、私がいない間に、あなたの銅人を勝手に触ろうとしました。幸い私が時間通りに戻って、こいつの行為を止めることができました。今、こいつを連れ戻してきましたので、雲さまのお裁きを仰ぎたいと思います。どのような処罰でも、お言葉通りにいたします」
葉錯は心中激怒した。「私がいつあなたの物を盗んだというのですか？ここには監視カメラもあるはずです。開いて、私が盗んだかどうか確認してください！もし盗んでいなければ、今日はあなたたち全員に後悔させてやります！」
孫大富は葉錯に睨まれて、びくりと震え、警備員の後ろに隠れながら、葉錯の鼻先を指差して言った。「この泥棒め、まだ図々しい口を利くか。後でどうやってお前を始末するか見ていろ！雲さまの銅人に手を出すとは、命知らずめ！」
残念ながら彼は知らなかったが、もしここに見物人が多くいなければ、葉錯が手加減する必要もなく、彼はすでに廃人になっていただろう。
雲野鶴は驚いて葉錯を見つめた。彼はもともと、この世外の達人は自分より年上のはずだと思っていた。そうでなければ、失われて久しい伏羲八陣針法を知っているはずがないと。今、葉錯が十五、六歳ほどの若さだと知り、思わず尋ねた。「何か間違いではありませんか？」
「いいえ！」孫大富は急いで胸を叩いて言った。「間違いなくこいつです。灰になっても分かります、逃がすわけにはいきません。ふん！雲さま、こいつが何を盗んだのか、どうぞおっしゃってください。必ずこいつに吐き出させます。今日は必ず牢屋に入れてやります」
雲野鶴は孫大富が葉錯だと確認したのを聞くと、すぐに警備員たちに向かって言った。「早く放しなさい、早く！この若者に失礼があってはいけません！」
「えっ？」孫大富と残りの人々は呆然とした。孫大富は葉錯を指差して言った。「雲さま、この泥棒は手癖が悪いんです。私たちは九牛二虎の力を使ってようやく捕まえることができました。簡単に放してしまったら、もしあなたに危害が…」
雲野鶴は怒りで山羊髭を震わせながら言った。「誰がお前たちに彼を捕まえろと言った？私はいつ彼が物を盗んだと言った？私は招待するように言ったんだ！この若者は私の恩人であり、秦せんせいの恩人でもある。秦せんせいの病気が治るかどうかは、すべて彼にかかっているんだ。お前たちは…まったく無茶苦茶な真似をしてくれた！」
「なんだって？」孫大富は心が沈み、全身が氷に落ちたかのように、顔は死人のように蒼白になり、どもりながら言った。「雲雲雲さま…私私私は…これは…何か間違いではありませんか？」
雲野鶴は孫大富を無視し、葉錯の前に進み出て深々と一礼した。「若者よ、これは誤解でした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私、雲野鶴がお詫び申し上げます」
葉錯は孫大富を見た。孫大富は全身震え、額には冷や汗が浮かんでいた。
葉錯は言った。「私が物を盗んだと言っていましたね？では、何を盗んだというのですか？言ってみてください」
「それは…」孫大富は額の汗を拭い、無理やり笑顔を作って言った。「若者、これは誤解だったようです…」
葉錯は冷笑した。「お前のような人間に、私と兄弟づきあいする資格はない。私が何も盗んでいないのなら、もう帰ってもいいですね？」
雲野鶴は冷哼し、孫大富を見る目が一気に冷たくなった。
孫大富の頭からは雨のように汗が流れ、急いで葉錯の方へ走り寄った。「お兄さん…旦那様…ご主人様、あなたは私の親御様です。私が間違っていました。目が曇っていて、とんでもない失礼をしてしまいました。どうか寛大なお心で、今回だけお許しください」
葉錯は淡々と笑った。「私にはそんな資格はありません。このような高級な場所は、私のような小人物には相応しくありません」そう言って、葉錯は身を翻した。
彼が一歩を踏み出したとき、突然背後でドタッという音が聞こえた。予想外にも、あの孫さんが直接葉錯の前に跪いて、涙と鼻水を垂らしながら泣き出した。「ご主人様、親御様、私が間違っていました。本当に申し訳ありません。あなたを冤罪に陥れ、殴りもしました。後悔しています…私…私…自分を叩きます！」
孫大富は言いながら、本当に左右の頬を交互に叩き始めた。漢方科の外に集まっていた人々は、一斉に騒然となり、指を指しながら、中には携帯を取り出してビデオを撮り始める者もいた。
孫大富は普段から悪名高く、貧しい患者をいじめていたため、今、彼が地面に跪いて自分の頬を叩いているのを見て、多くの人々が拍手喝采し、痛快がった。
葉錯は冷笑して言った。「私はお前に自分を叩けとは言っていない。しかし、お前が叩きたいというなら、そのまま叩き続けろ。ここにいる全員が止めていいと言うまで、止めることは許さない！」
孫大富は自分の頬を叩きながら、外で拍手喝采する人々を見た。多くの人々が「もっと力を入れろよ、デブ！そんなに食って、力も入らないのか？」と罵っていた。
孫大富は思わず全身を震わせた。葉錯を怒らせてしまったことを、腸が青くなるほど後悔していた。