第88章 徳を以て怨みに報いる

葉錯は笑いながら言った。「なかなか面白かったね。お金を使わずに大芝居を見られたよ」

秦扶蘇は穏やかに微笑んだ。

葉錯は言った。「秦扶蘇君って生まれつき怒らないの？」

秦扶蘇は答えた。「多くのことは、怒る価値がないだけさ」

「例えば？」

秦扶蘇は少し考えて言った。「例えば、彼女の言っていることは全て嘘だと分かっているし、私は彼女の言うような人間じゃない。彼女が私を罵るのは彼女の品性であり、私がそれにどう対応するかは私の教養だ」

葉錯は言った。「でも、正しいなら堂々としているべきだよ。こういう悪い人たちは、懲らしめないと反省しないし、これからもっと悪いことをするかもしれない」

秦扶蘇は考えて言った。「私は、正しいからといって必ずしも強気になる必要はないと思う。穏やかに対応することもできる。心平らかであれば、多くの問題はより良い解決方法が見つかるものだ」

その時、バスが急ブレーキをかけた。タクシーが前から斜めに飛び出してきたのだ。バスの運転手は罵声を浴びせた。「運転できないのか！」

車内では、乗客たちが東西に倒れ、妊婦が突然悲鳴を上げた。「あっ！ああ——お腹が...お腹が...」

彼女はお腹を押さえ、苦痛に満ちた表情で床に倒れた。

秦扶蘇は表情を変え、立ち上がって近づこうとした時、横にいたおじさんが彼を引き止めた。「若いの、触るなよ。これは絶対に当たり屋だ」

秦扶蘇は少し躊躇したが、妊婦の顔を見ると、既に真っ青で、苦痛で顔が歪んでいた。

秦扶蘇は言った。「でも、本当に苦しそうですよ」

おじさんは諭すように言った。「たとえ本当だとしても、お前が関わる必要はないだろう。さっきお前をあんなに罵ったじゃないか。自業自得だ。自分の子供のために徳を積まなかったんだから、これは報いだ」

秦扶蘇は妊婦を見た。妊婦は片手でお腹を押さえ、顔は紙のように白く、冷や汗が額から雨のように流れていた。妊婦は必死に秦扶蘇のズボンの裾を掴んで「助けて...私の子供を助けて...」

秦扶蘇は深く息を吸い、おじさんの手を振り払って前に進み、妊婦を支えて寝かせた。運転手に向かって言った。「運転手さん、ドアを開けてください。病院に連れて行きます」

バスの運転手は言った。「渋滞で動けないよ。車も動けないのに、抱えて行くつもりか？」