第89章 秦扶蘇の器量

葉錯は分からなかった。この妊婦はもう出産が近いのに、なぜバスに乗っているのだろう。もし本当に裕福な家庭の人なら、付き添いの人が一人もいないはずがない。

この妊婦の体があまりにも弱っているのを見て、葉錯は妊娠期間中に栄養失調だったのではないかと疑った。これは絶対に裕福な人の妻ではない。むしろ見捨てられたのではないかと疑った。そうでなければ、一人で病院に行くはずがない。

周りの人々に助けを求めると、みんなが慌ただしく集まってきた。男性たちは上着を脱いで目隠しを作り、バスの中の女性たちは葉錯の手伝いをした。

一時間の奮闘の末、バスの中に突然、赤ちゃんの力強い泣き声が響き渡った。みんなが喜び、葉錯が汚れた赤ちゃんを抱いて立ち上がるのを見つめた。

秦扶蘇は急いで自分の服を脱ぎ、赤ちゃんを拭いて包んだ。

葉錯は彼を見て心の中で思った：数十万円もする服が台無しになってしまった。

秦扶蘇は誰よりも嬉しそうで、心から笑みを浮かべながら、周りの人々に何度もお礼を言った。葉錯は冗談めかして言った：「あなたの奥さんが産んだわけでもないのに、さっきあんなにひどく罵られたのに、助けてあげただけでいいじゃないですか、そんなに喜ぶことないでしょう。」

秦扶蘇は照れくさそうに笑って：「ただ、人を救えて嬉しいだけです。」

葉錯は黙って首を振った。金と権力のある二世がなぜ放蕩息子ではなく、こんなに優しい心の持ち主なのか理解できなかった。国内の二世は、ほとんどが傲慢で横暴な振る舞いに慣れており、親の権力と財力を笠に着て、あらゆる悪事を働いている。そのような報道はネット上で後を絶たない。

しかし、もし秦扶蘇の今日の出来事が報道されたら、おそらく人々はこれらの官二世や富二世に対する見方を完全に変えるだろう。

妊婦は先ほどまで苦痛で大きな悲鳴を上げていたが、次第に弱々しくなっていった。今、出産を終えて、彼女は気を失いそうなほど衰弱していたが、それでも秦扶蘇が抱いている赤ちゃんを見ようと踏ん張っていた。

秦扶蘇が赤ちゃんを彼女に渡すと、妊婦は車内の床に横たわったまま、起き上がろうとしたが、できなかった。秦扶蘇は赤ちゃんを彼女の腕の中に置いた。